オックスフォードで学んだ、アニメまでアカデミックに議論する「思考の作法」

オックスブリッジの学部教育

2014年11月04日(火) オックスブリッジ卒業生100人委員会
カレッジの中庭(Quad)にて、同期と
羽生雄毅
1985年生まれ。栄光学園中学2年の時パキスタンのイスラマバード・インターナショナルスクールへ転校。高校2年修了で2002年よりオックスフォード大学セイント・キャサリンズカレッジへ入学。無機化学専攻。2006年からは博士課程に進学、2010年博士号取得。在学中は科学ソサエティーの会長や、アジア太平洋ソサエティーの委員などを務める。博士課程修了後はモスクワ国立大学への短期留学、東北大学での産学官連携研究員を経て、現在は東芝研究開発センターにて大型蓄電池の研究開発に従事。

私は2002年にオックスフォード、セイント・キャサリンズカレッジの学部に化学専攻で入学しました。当時、勉強は高校の化学の延長だと思っていましたが、実際は全く違っており、入学後は一から学び直すような気分でした。「高等教育の目的はコンテンツではなく思考の方法論だ」と父に言われていましたが、そのことを実感する4年間となりました。

知るよりも理解せよ

オックスフォードで化学や物理を専攻する学生の典型的な一日は、午前中が「講義」、午後が「セミナー」と「チュートリアル」です。

講義は、教授1人に対し生徒150人ぐらいのいわゆる大教室の授業です。理想気体や結晶といった18世紀の話から始まり、その後に熱力学が登場し、次に統計力学や量子論が現れ…化学の発展の歴史を追うかのようでした。講義は毎週15時間弱あり、文系科目と違って出席は必須となります。ただし出欠は取られていなかったので、ペナルティーも強制力も無い「必須」でした。

セミナーは、博士学生やポスドク1人に対し生徒5人ぐらいの授業で、チュートリアルは教授との1対1、ないし2での授業です。これらの授業の前にはそれぞれ課題が出され、期日までに提出し、授業で答えあわせをします。ところがこのセミナーとチュートリアルの内容の順番は、講義と同じとは限りません。つまり講義の分は講義、セミナーはセミナー、チュートリアルはチュートリアルと、別の勉強が必要になります。そのため一年が終わってみると、全てのカリキュラムを3回勉強したことになるのです。講義、セミナー、チュートリアルについて、進度や内容を合わせてくれれば効率よく勉強できるのにと何度も思っていました。そんな不満を抱えつつ、当初は出される課題をがむしゃらにこなすのみでした。

課題については教授から度々、「知る(know)よりも理解(understand)するように」と言われました。「答えが分からない時は論理的な当て勘(educated guess)を試みろ」とも。そして実際に、答案の正誤はともかく"educated guess"をすれば部分点をくれたのです。そのせいか私は、とにかく屁理屈をこねれば点が取れると、浅知恵丸出しの必勝法をよく使っていました。

しかし、「知るより理解しろ」と言われても、やっぱりセミナーで得た理解とチュートリアルで得た理解は、それぞれ関係の無い別個のものに思えました。なぜ絶対零度でもヘリウムは凍らないのか、なぜ一酸化炭素が有毒なのかは理解できたけれど、だからどうだというのでしょう。これでは単発の知識の寄せ集めの"know"と大差無いのではと思ったのです。ところが思い返してみると、ここがミソでした。

2年生の1学期目あたりから、講義、セミナー、チュートリアルでの理解が、お互いにつながり始め、"ハッとする瞬間"を覚えるようになったのです。そんな瞬間は2年生の後半以降に増え、3年生の半ばまでには、「群論・赤外スペクトル・光学異性体」といった、別々だった理解に横串が通るようになりました。そしてそれまで勉強してきた18世紀のボイルの法則から21世紀のナノ材料までのストーリーが一本につながるようになったのです。あとから振り返ってみると、オックスフォードの学部では、何世紀にもわたる引用と批判の積み上げを、3年間で一気に丸々辿っていたのです。あの場所で教えていたのは、学問という名の「知識と理解を積み上げるための作法」ではないかと感じました。




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オックスブリッジ卒業生100人委員会

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