【第64回】 ユーロ圏はいかにしてデフレ危機を回避するか?
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9月18日の当コラム(「講座 ビジネスに役立つ世界経済 第59回 ドル円レートの落ち着きどころを考える」)において、筆者は、来年6、7月の米国のゼロ金利政策解除を考慮した上で、日米の金融政策から考えられるドル円レートの適正値は1ドル=105円程度ではないかと予想した。

ドル円レートは一時、1ドル=110円にタッチしたが、その後は反転し、現在は1ドル=108円前後で推移している。「1ドル=110円の円安は持続可能ではない」という筆者の考えは今のところ当たっているが、現状、1ドル=108円前後で推移するドル円レートは筆者の予想と比較すると、ややドル高が行き過ぎている感がある。

その「行き過ぎたドル高」の要因の1つとして筆者が考えているのは、「ドラギECB(欧州中央銀行)総裁の追加緩和政策に対する過大評価」である。すなわち、今後、ドラギECB総裁が思い切った追加緩和(量的緩和)を実施することによって、ユーロ圏のデフレ危機は回避されるとの期待がマーケットでは依然として強く、その結果としてユーロ安ドル高が進行したことが、円安をももたらしているのではないかと考えている。よって、今回はECBの金融政策とユーロの動向についてについて考えてみたいと思う。

「一人勝ち」のドイツにもデフレの影が忍び寄っている

9月時点のユーロ圏全体のCPI(消費者物価指数)は、前年比+0.3%である。ユーロ圏のインフレ率はかなり急激に低下している。CPIでみると、2011年1月には前年比+2.3%で、同年9~11月には同+3.0%にまで上昇していた。このユーロ圏のインフレ率は2013年10月から前年比で+1%を下回るようになり、現在の同+0.3%まで低下している。

一般的にCPIでみた場合、算出上の技術的な問題等で、発表されるCPI前年比の数値は、実際のインフレ率よりも0.7~1.0%程度高いといわれている(インフレ率の上方バイアスの問題)。よって、CPI前年比で+1.0%を割り込んだ2013年10月以降、ユーロ圏は全体でみればデフレに陥ってしまっていると考えてよいだろう。

図1. ユーロ圏のマネタリーベースの推移

これを国別でみると、9月時点で、ギリシャが前年比-1.1%、スペインが同-0.3%、イタリアが同-0.1%と、ユーロ危機の発端となった「周辺国」ではすでにインフレ率のマイナスが定着している。これに加え、フランスが同+0.3%、ドイツが同+0.8%と、いわゆる「中心国」のインフレ率も大きく低下してきた。景気の悪化が長期化するフランスは仕方ないところもあるが、これまで「一人勝ち」といわれてきたドイツにもデフレの影が忍び寄っているのがユーロ圏経済の現実である。

このところドイツでは、輸出の回復が思わしくなく、製造業の新規受注や生産の減少が著しい。ただ、ドイツの輸出不振は2012年からであり、その間、ドイツ経済を牽引してきたのは、実は建設投資と個人消費といった内需であった。だが、内需も急速に減速している。消費の先行指数である消費者心理(消費者信頼感指数)も大きく低下していることから、今後も消費の回復は期待薄である。

このようなユーロ圏経済の状況を鑑み、ECBでは追加の金融緩和が検討されてきた。元来、ECBは伝統的に旧日銀と金融政策に対する考え方が近い。これまでであれば、ECBの追加緩和策に対する期待もそれほど盛り上がらなかっただろう。

だが、ドラギ総裁は、米国の大学院で経済学博士号を取得し、米国系の投資銀行での勤務経験があることから、旧来のECB的な金融政策スタンスを打ち破るとの期待が強い。そして、ドラギECB総裁も、このところ、矢継ぎ早に追加緩和策を打ち出しており、これが追加緩和を催促しながら推移していくマーケットの動きとちょうど歩調が合っているためか、追加金融緩和に対する期待が持続しているようだ。

そこで、ECBの金融政策スタンスについてあらためて振り返ってみよう。図1はECBが供給したマネタリーベース残高を示したものである。点線は2001年半ばから2008年半ば(リーマンショック直前)までのトレンドを直近時点まで伸ばしたものである。2001年半ばから2008年半ばにかけては、実際のマネタリーベースの動きはほぼトレンド線と同じである。

これは、2001年半ばから2008年半ばまでの約7年間、ECBは一定のペース(年率で約12%増)でマネタリーベースを拡大させていたことがわかる。これはある意味、ECBが、かつてマネタリストが主張していた「K%ルール(一定のペースでマネーを増やすような機械的な金融政策こそが物価安定化のためには最適である)」に近い金融政策スタンスをとっていたことを示唆していて興味深い。しかも、その間のインフレ率はおおむね2%近傍で安定的に推移していた。

図2.ユーロ圏のインフレ率とマネタリーベース
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