FOOTBALL STANDARD

二宮寿朗「対世界を見据えたマッチメークの重要性」

2014年10月29日(水) 二宮 寿朗

「ネームバリューのある選手が相手だろうが臆せずに、戦うことをやっていかないといけない。リスペクトはしても怯えてはいけない。日本代表が次のステップに進むためには、フレンドリーマッチでイングランドやドイツ、イタリアといったチームとアウェーで次々に戦うことだ。そのことに尽きる」
 ブラジルW杯後、日本代表監督を退任したアルベルト・ザッケローニは、かねてから強化策の最重要項目としてこのように提言していた。

 海外に出ていって強豪国と戦い、ネームバリューのある選手たちを相手にひるむことなく戦って経験値を上げる――。
 ザックの提言に背中を押されたのか、日本サッカー協会は今月、ブラジル代表と戦うシンガポール遠征を実現させた。

“一石三鳥”の意味を持ったシンガポール遠征

 ブラジル代表は自国開催となった今年のW杯でドイツ代表に準決勝で歴史的な大敗を喫して決勝の舞台に進めず、ドゥンガ新監督のもとで建て直しを図っている最中だ。親善試合、とはいえこれまで引き締まったゲームを見せており、日本戦を含むアジアへの遠征もネイマールやオスカルら主力中心のメンバー構成になっていた。

 ブラジルが中国でのアルゼンチン戦から中2日という厳しい日程であったにもかかわらず、日本は彼らの攻撃力を食い止めることができなかった。結果は0-4の大敗。しかし、マッチメークの観点に立てば“一石三鳥”の効果があったと思っている。

 1つ目の効果は言うまでもなく、アウェーに出てブラジルと戦えたことだ。開催地のシンガポールは同じアジアとはいえ、日本から飛行機で7時間がかかる距離にある。気候やピッチの感触もまるで違う。正確に言えば日本とブラジルとの「中立地開催」だが、慣れない場所で試合をするというのは相手とイーブンに近い条件であり、試合環境への対応力を磨くこともできる。

 2つ目の効果は日本を率いるハビエル・アギーレが、「アジアで戦う」体験を得られたことだろう。ロシアW杯ではアジア予選の方式が変わり、1次予選と最終予選の2段階となる(ブラジルW杯のアジア予選は1次予選から最終予選まで4段階だった)。1次予選(前回予選の3次予選に相当)では東西で40カ国が8組に分かれ、各組1位8チームと2位の成績上位4チームの計12チームが最終予選に駒を進める。日本は1次予選から東南アジアの国と同じ組に入る可能性があり、アジアを知らないアギーレにとってシンガポール遠征で東南アジアの環境を肌で知ったことはかなり有益だったのではあるまいか。

 そして3つ目の効果は、経済成長の著しい東南アジアに対する日本サッカーのプロモーションを行えたことだ。Jリーグは20周年を契機に、まずタイへ進出してJ1の放送を地上波でスタートさせ、東南アジア諸国に向けた拡散の動きを本格化させている。続いて日本協会も日本代表の放送権事業を始めており、協会関係者も「これはJリーグとの共同プロジェクトと言ってもいい。今後のプロモーションを考えても、シンガポールでブラジル代表と試合をやれたことに意義がある」と遠征の効果を強調していた。

 シンガポールでは英プレミアリーグの人気が高いようで、日本人選手のなかでも昨季マンチェスター・ユナイテッドでプレーした香川真司(現ドルトムント)が特に注目されているとか(今回の遠征、香川は不参加)。実際、スタジアムでは7対3ほどの割合でプレミアのクラブに所属する選手が多いブラジルのファンが圧倒的に多く、ネイマールがゴールネットを揺らすたびにナショナルスタジアムは盛り上がりを見せた。ブラジル相手に完敗を喫したゆえに、日本にとって狙いどおりのプロモーションになったかどうかは分からない。ただ、上記に挙げた3つの効果を考えても、開催のメリットは多かったはずである。

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