特別レポート 海を渡ったスポーツ天才少年たち
誰もが錦織圭になれるわけじゃない その光と影

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ただし、「IMGに送れば、誰でも一流選手にしてくれるというわけではない」と、盛田氏は語る。

「コーチが本気になってくれるレベルの選手にならないと、意味がありません。IMGには350人ほどの選手がいますが、そのなかでもトップクラスの一握りに入らなければ、最高レベルのトレーニングは受けられないのです。ですから毎年、留学生の選考には向こうのヘッドコーチに来てもらって『将来、トップグループに入れるような子を選んでくれ』と伝えています。また、15歳くらいになると、すでにフォームが固まっていて修正が利かないため、12~13歳の子供を送るようにしています」

まだランドセルが似合うような子供たちにとって親元を離れて暮らすだけでも一大決心だ。しかも、生活するのは異国の地。それでも選考会には、留学を目指す天才少年たちが続々と集まる。応募資格は全国レベルの大会でベスト4以上という厳しい条件が課されているが、場合によっては選抜該当者なしという年もあるという。そうして選ばれた精鋭たちはどんな環境で育成されるのだろうか?

「朝起きたらまずフィジカルのトレーニング。その後、テニスをしてから学校に行きます。学校は現地校で、当然ながら授業はすべて英語です。それに加えて、日本人としても一人前になってもらわなければいけませんから、日本の通信制の学校の勉強もさせています。学校から帰ったらまたトレーニングとテニスの練習です。遊ぶ暇はほとんどないでしょうね」(盛田氏)

滞在費や学費、レッスン代、遠征費などはすべて財団が面倒を見てくれる。子供一人にかかる費用は、遠征の回数にもよるが、年に数百万円だという。

子供たちは、テニスのための最高の環境を与えられるが、要求されるレベルも半端ではない。毎年、新学期が始まる9月に、翌年5月までにクリアすべき厳しい課題が与えられ、それをクリアできないと日本に帰されてしまうのだ。

「例えばITF(国際テニス連盟)のジュニアランキングで300位の選手には、翌年までに150位以内に入れ、という具合です。目標達成のためには、相当な努力をしなければなりません。錦織が行った年には、同時に3人を送ったのですが、最後まで残ったのは錦織だけでした」(盛田氏)

夢破れ、挫折を味わう

日本では幼いうちから頭角を現すような逸材でも、世界レベルでやっていくのは至難の業だ。普通の日本の中学に残っていれば、全国大会で上位に勝ち残り、ヒーローになれたかもしれない子供たちでも、いったん世界に出てしまえば、「もう夢をあきらめたほうがいい」と失格の烙印を押されてしまうのだから、残酷な世界である。スポーツライターの武田薫氏は語る。

「本当にプロになりたければ海外に行くことが望ましいが、それは賭けでもあります。言葉や食事の問題もあるし、そもそも自分がプロになりたいのか、なんのためにプレーしているのか、根源的な目的を問われることになる。だから、途中で帰ってきてしまう子が多いのは仕方ないことです。また、奨学金がないと親の経済的負担はかなり大きい。資金が尽きるとともに、留学を続けてプロになる夢をあきらめるというケースもままあります」