800年以上続く「儀式」を行い、オックスブリッジの門が開く日
現地レポ~入学式~

「現地レポ」シリーズでは、そのときのタイムリーな話、まさにいま、オックスブリッジで起こっている話を、臨場感をもって、読者のみなさまにお届けしていきます。

入学式の日の写真(左がケンブリッジ大学に入学した城口、右がオックスフォード大学に入学した中川)緊張と興奮が入り混じった笑顔から、オックスブリッジ生活が始まった。
城口洋平
灘中・高卒。灘校58回生徒会長。東京大学法学部、ITベンチャーを経て、ケンブリッジ大学修士過程に入学、現在、博士課程在籍中(工学部スマートエネルギーグループ所属、カレッジはピーターハウス)。現在ケンブリッジでは、スマートエネルギー系のベンチャー企業の役員も勤める。
中川怜架
四谷雙葉中学校卒業後、15歳で渡英。Bromsgrove High SchoolにてGCSEとA levelを取得。2006年オックスフォード大学に進学し、数学を専攻。カレッジはレディーマーガレットホール。大学時代はオックスフォード・フィルハーモニアにも所属し、様々な音楽活動にも携わる。2010年、学士・修士課程を修了。現在は東京の外資系金融関連の会社に勤務。

毎年訪れるこの季節。10月の第2週。まさにこの原稿を書いている今、「Freshers’ Week」と呼ばれるこの週、オックスブリッジの門が開く日がある。それが、Matriculation(マトリキュレーション)と呼ばれる、いわば「入学式」の日だ。この「マトリキュレーション」、オックスフォードとケンブリッジでは全く異なる。今回は、オックスフォードとケンブリッジ、それぞれの話をお伝えできればと思う。

ケンブリッジの入学式

ケンブリッジの入学式は、大学として正式なものはない。31のカレッジがそれぞれカレッジ単位で独自に行っている。カレッジはひとり1つしか所属できないため、誰一人として、ケンブリッジの入学式の全貌を知るものはいない。よって、筆者以外のカレッジ所属の人にもヒアリングはしたが、以下、ピーターハウスというカレッジに所属する筆者の独断と偏見に基づいた「入学式」を書かせていただく。

そもそも、入学式の日はカレッジにより異なる。また、カレッジの運営は、学部の運営と全く異なるため、学部の授業とカレッジの「入学式」がバッティングすることがある。(※学部とカレッジについては連載第1回をご参照ください)。実は筆者もそうだった。そこで学部の教授に「マトリキュレーションと被ったんだけど、どうしたらいいの?」と聞いたところ、「当然、授業優先だ!」と言われた。試しに、同様の質問をカレッジのヘッドポーター(執事長)に聞いてみたところ「当然、カレッジのマトリキュレーションだ!」と顔を真っ赤にして言われた、という具合だ。

人生に一度の「入学式」と、まあ多数ある「授業」を天秤にかけ、幸い前者を選んだ筆者は、ケンブリッジ800年の歴史の洗礼を浴びるという貴重な経験をすることとなった。

初めてのガウン、ケンブリッジの伝統

ドレスコードはスーツにアカデミックガウン。スーツを着て、ガウンを着て、カレッジに集合する。新入生にとって、「ガウン」を着るのは、この入学式が初めてである。そのため、ガウンはぎこちない。どこに袖を通すのかもわからず、友達同士で教え合う。ネクタイもまだ締め慣れてはいない。その後、フォーマルディナーでスーツ&ガウンを日常的に着ることになるなど、この時はまだ知る由もない。ちなみに、ピーターハウスは、フォーマルディナーが毎日ある数少ないカレッジでもある。

まず、ホールに生徒全員が集まり、マスター(ピーターハウスのカレッジ長)からの話を聞く。正直、その内容は全く覚えていない(笑)。まさに、文字通りハリーポッターの世界に自分が迷い込んでしまったことに対する興奮で、まったく頭に言葉が入らなかった。そもそも、英国上流階級のユーモアにとんだ上品なマスターの英語は難しい。

その後、新入生が一人ずつ、名前を呼ばれ、別室に入る。そこで代々伝わる本に、自分の名前を書く。そして、文字が刻まれた木の板を渡され宣誓させられる。これもまた緊張で、全く内容を覚えていない(笑)。この連載を書くにあたって後にカレッジに尋ねたところ、要約すると「ピーターハウス(所属カレッジ)の一員であることを誇りに思い、勉学に励む」ということを宣誓したらしい。目の前には、マスター以下、フェローと呼ばれるカレッジの教授陣が並んで、一人ひとりの宣誓を聞いてくれている。そして、一人ずつ丁寧に握手をし、最後にマスターに「I Accept You」と言われて初めてカレッジの一員となる。この時、私はピーターハウスのカレッジタイを絞めており、そのことをマスターに褒められたことだけはかろうじて覚えている。