『関西鉄道遺産』
私鉄と国鉄が競った技術史
小野田 滋=著

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関西独自の鉄道文化が育んだ技術遺産

 関西地方では、明治以来、官と民が競いながら独自の鉄道文化を築いてきた。そのため、東京では見られないひと味違った鉄道構造物が多数存在する。本書では、関西の鉄道遺産を訪ねながら、その歴史や技術的なみどころを専門的な視点で解説。鉄道技術史研究の第一人者が執筆した、本格的解説書、待望の関西編。


はじめに

 文豪の谷崎潤一郎は、東京市日本橋区で育った生粋の江戸っ子だったが、関東大震災をきっかけとして関西に移住し、のちに関西を舞台とした『細雪』などを執筆した。谷崎の著作を読むと、東京人であった谷崎が、関東と異なる関西の習俗に驚き、馴染んでいく様子が描かれていて興味深い。

 大谷崎には到底及ばないが、筆者もかつて東京から大阪へ転勤し、東京とは大いに異なる関西に興味を持った一人であった。ただし、筆者が興味を持ったのは関西の習俗ではなく、鉄道構造物だった。

 鉄道は、全国に版図を広げ、その多くを国有鉄道が一元管理をしていたので、全国共通の規格や標準設計が用いられた。このため、橋梁や鉄道車両なども全国共通の設計が用いられ、かつてD五一形蒸気機関車は全国各地に約千二〇〇両が配置されて、どこでも使うことができる万能機関車として重宝された。しかし、C六二形やE一〇形のようにある特定の路線や区間だけで運用されていた地域限定の特殊な機関車もあるので、地方による違いもそれなりに存在する。

 ただ、それぞれの地方に住んでいる人にとっては、ごく普通に見かけている風景なので、何が特別なのかがよく理解されていない。鉄道関係者や蒸気機関車に関心のある人は別として、一般の人はどんな機関車がどこを走っていようが日常生活には関係ない話である。鉄道構造物も、それぞれの地方で特色のある構造物が存在するが、その地方にとっては珍しくもないので、とりたてて話題とされることはなかった。近頃は、「B級グルメ」とかで、地方のソウルフードが注目されているが、地元では日常的に食べられているものばかりなので、他県の人から珍しさを指摘されても「何をいまさら」ということになる。

 本書では、鉄道構造物の中から、いかにも関西らしい構造物を意識的に選んでみた。東京で決められた標準設計は全国に敷衍されたが、関西では東京には無い独自の構造物も存在する。ただし、構造物の設計・施工に携わった技術者が、ことさらに「東京とは違った構造物を実現しよう」と意気込んだわけではなく、結果的にそうなっただけである。

 むしろ、関西独自の自然環境や、国鉄と私鉄が妍を競ったという歴史が、関西独自の構造物を生み出したと言えるだろう。たとえば、関西のあちこちに分布する天井川の下をくぐる短いトンネルは、関西の地理的な環境がもたらした独自の景観である。

 本書が、関西の鉄道構造物を見直すきっかけとなれば幸いである。

著者 小野田 滋(おのだ・しげる) 
一九五七年愛知県生まれ。日本大学文理学部応用地学科卒業。一九七九年日本国有鉄道入社。東京第二工事局、鉄道技術研究所勤務を経て、分割民営化後は、鉄道総合技術研究所、西日本旅客鉄道(出向)、海外鉄道技術協力協会(出向)などに勤務。現在は鉄道総合技術研究所勤務。NHK「ブラタモリ」にも出演。工学博士(東京大学)。著書に、『東京鉄道遺産』(講談社ブルーバックス)、『高架鉄道と東京駅(上)(下)』 (交通新聞社)、『鉄道と煉瓦』 (鹿島出版会)、『鉄道構造物探見』(JTB)など。土木学会フェロー。
『 関西鉄道遺産 』
私鉄と国鉄が競った技術史

小野田 滋=著

発行年月日: 2014/10/20
ページ数: 192
シリーズ通巻番号: B1886

定価:本体  1000円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)