ブルーバックス
『川はどうしてできるのか』
地形のミステリーツアーへようこそ
藤岡換太郎=著

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黄河から多摩川まで、「魔物の正体」に迫る!

 名だたる大河から名もなき流れまで、地球上には無数の川が存在しています。最初は同じ雨水なのにその姿は千差万別で、ときに人間には信じられないふるまいも見せます。ヒマラヤを乗り越え、砂漠で洪水を起こし、平地より高く流れ、ほかの川の流れを奪う──。まるで魔術のような現象はなぜ起こるのか、地形の名探偵と一緒に謎解きをしてみましょう。山より海より、川はミステリアスです!


はじめに

 私たち日本人は小さいときから川となじみの深い生活をしてきています。海のない県はあっても、川のない県はありません。日本にはいったい、いくつ川があるかと聞かれて答えられる人はほとんどいないでしょうが、おそらく3万5000から4万くらいでしょうか。あるいは無数にあるというのが正解かもしれません。小さな島国に、川はひしめいているのです。

  ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。

  よどみに浮かぶうたかたは、

  かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし

 鴨長明も『方丈記』にそう書いているように、日本人が川に独特の思い入れをもつのは、川に「流れ」があるからではないかという気がします。一つのところにとどまらず、うつろうさまに、桜を見るときにも似たはかなさや無常さを感じとっているからではないでしょうか。

 昔から多くの歌や絵画、文学作品に描かれ、人々の生活の一部にさえなっている川はしかし、学問の対象としてはあまり研究が進んでいないように思います。

 私は大学3 年のとき、地質学のゼミでアーサー・ホームズの『Principles of Physical Geology』という本を輪読して、ヒマラヤ山脈を越えて流れる川があることを初めて知って驚きました。同じホームズの本にあった、インドネシア海中のスンダ(陸棚)地域に、かつては陸上を流れていた河川の跡が残っていたという話も強く印象に残りました。ほかにも黄河や揚子江、メコン川などのアジアの大河が流れる道筋の奇妙さなど、常識をひっくり返されるようなことばかりの川のふるまいに、学生時代は大変興味を覚えたものでした。

 しかし、そのあと研究生活に入ってからは、川のことはすっかり忘れてしまっていました。周囲にも、河川を専門にしようという研究者はいませんでした。川の研究など厄介なだけで、目ざましい成果をあげることは至難の業だったからです。

 川のなりたちを知るのは容易なことではありません。証拠がほとんど残っていないからです。文字どおり、水に流されてしまうのです。川に「流れ」があることが、研究者にとっては大きな壁となっているのです。

 ところが、ブルーバックスから『山はどうしてできるのか』『海はどうしてできたのか』という連作を刊行したあと、次のテーマとして「川」が当然のように私の頭に浮かんできました。学生時代に川の本を夢中になって読んだ記憶が蘇ってきました。川の面白さの一つは、地形図を広げて眺めているだけで「どうしてこんなことになっているんだ?」という疑問が次々と湧いてくることです。それらの疑問を地質学のセオリーを駆使しながら解いていくのは、推理小説を読むように楽しいものです。およばずながら自分が探偵役をつとめ、川の謎解きを多くの人に面白がっていただけるような本が書いてみたくなったのです。

 執筆にあたっては、ちょっとひねった構成を考えてみました。

 まず第1部では、教科書的な川の説明は後回しにして、川が繰り出す魔術のような不思議な現象を次々にご覧に入れ、その謎解きをしていきます。13の謎を私と一緒に解いていただくうちに、川を考えるときの土台となる要素が読者の頭に自然と入るようにしたつもりです。

 第2部では、ある一つの川のはじまりから終わりまでを追いかけます。雨粒の「ドリッピー」が川となって冒険の旅をする『家出のドリッピー』という英語学習用テキストを少し意識しています。最初の雨粒が高い山に落ち、それらが集まって大きな川となり、海へ注ぐまでの物語です。

 第3部では、ある川について私がかねてから抱いている疑問から、ふと思いついただけの仮説まで、きちんとした検証は難しいけれど興味をひかれていることを、想像をたくましくして述べてみました。荒唐無稽に思われるかもしれませんが、読者のみなさんもこんなふうに自由な発想で川を見てほしい、という願いも込めています。

 このように一見ばらばらな本書を貫いているテーマがあるとすれば、それは「時間」です。川を魔性の地形にしている「流れ」とは、時間の経過そのものです。川をつかまえるには悠久の時間軸を念頭におくことが大切なのであり、それは「山」「海」にも通じる私のテーマでもあります。

 少し理屈っぽくなりました。まずは、川の謎解きをお楽しみください。

著者 藤岡換太郎(ふじおか・かんたろう) 
一九四六年京都市生まれ。東京大学理学系大学院修士課程修了。理学博士。専門は地球科学。東京大学海洋研究所助手、海洋科学技術センター深海研究部研究主幹、グローバルオーシャンディベロップメント観測研究部部長、海洋研究開発機構特任上席研究員を歴任。二〇一二年退職、現在は神奈川大学、桜美林大学、放送大学などで非常勤講師。「しんかい6500」に51回乗船し、太平洋、大西洋、インド洋の三大洋初潜航を達成。海底地形名小委員会における長年の功績から二〇一二年に海上保安庁長官表彰。著書に『山はどうしてできるのか』『海はどうしてできたのか』(ともに講談社ブルーバックス)など。
『 川はどうしてできるのか 』
地形のミステリーツアーへようこそ

藤岡換太郎=著

発行年月日: 2014/10/20
ページ数: 216
シリーズ通巻番号: B1885

定価:本体  860円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)