読書人の雑誌『本』
ストレッチ式発声法でネイティブな発音を!---『「ネイティブ発音」科学的上達法―おどろきのストレッチ式発声術』著・藤田佳信

吾輩は猫である』を書いた夏目漱石は、英語教師でもありました。東京帝国大学の、日本人英語教師第一号です。漱石先生の時代から今日にいたるまで、わが国には、すでに百数十年におよぶ英語教育の歴史があります。

わが国には昔から、独自の外国語学習法がありました。外国語を、日本語仕様にしてしまう便利な方法です。文字だけを輸入し、音(発音)は自前で間に合わせる、これを「(漢文)訓読式」と呼びます。意味さえわかればOKなのです。そこで、近代に渡来したイングリッシュも、ご先祖たちは日本語仕様にしようと考えました。英語版訓読式です。

訓読式は、ネイティブの発する音声を、そのままに受容するやり方ではありません。個々の音についても、ネイティブの音声を忠実に聞き・再現するシステムではないのです。たとえば、母音なら、日本語にはない異質な音(音素)をすべて、わずか5つの母音〈ア、イ、ウ、エ、オ〉で処理します。

日本の英語教育は訓読式で、〈読み・書き〉能力を育てるのに大いに力を発揮しています。その反面で、当然のことながら訓読式は〈聞く・話す〉能力を養うには適していません。学校教育で学習が進むほど、〈読み・書き〉のレベルだけがどんどん高くなります。そして必然的に、〈聞く・話す〉能力とのバランスが崩れます。漱石先生は、留学先のロンドンで深刻なウツになりました。(日記などから推測するに)両能力の極端なバランスの悪さが原因の1つであった、のかもしれません。

さて現実問題として、英語を〈聞く・話す〉能力を身につけるためには、どうすればよいのでしょうか? 答えは、簡単明瞭です。頭を使う訓読式とは異なる、体を使う発音・発声法を採用する、です。ネイティブ・スピーカーの異質な音声をそのままに、体で受けとめて再現する筋肉トレーニングを実践する、です。

英語版訓読式書き言葉の基本単位は、ワード(単語)です。訓読式では、視覚で確認できるワードを一つずつ順に読みます。一方、話しことばの基本単位は、「フット」と呼ばれる、強音節と弱音節(群)の組み合わせです。各単語の境界とは無関係に、音(音節)はすべて互いに密着します。こんなふうに―、

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大文字は強音節で、後に弱音節が続きます。斜線で区切られた3つの部分が、それぞれフットです。そして英語の話しことばは、原則的にフットの連続・繰り返しなのです。

音声学者のジョン・キャットフォードは、英語リズムの特徴として、「等時的=isochronous」と「等力的=isodynamic」の2つを挙げています。「等時的」とは、フットはそれぞれ、ほぼ同じ長さの時間で発音される傾向がある、というものです。後の「等力的」とは、各フットを発声するのに、ネイティブ・スピーカーはほぼ等しい筋肉エネルギーを配分しようとする、というものです。「英語の話しことばは、体(筋肉エネルギー)を使って声を出すもの」という発想がなければ、「等力的」という言葉の意味はわかりません。

日本の英語教育は、例の頭を使う訓読式を採用していますから、後の「等力的」について説明を省略しています。つまり、生身の人間が発音・発声に関する種々の筋肉を働かせて発声するという側面を、とりあえず無視しておこうとするのです。しかし、「等時的」と「等力的」は、英語のリズムを理解・習得するための両輪とも言えます。初めにその片方が欠けるのですから、当然バランスは悪くなります。意欲的な学習者の、精神のバランスにもよくありません。

私の『「ネイティブ発音」科学的上達法―おどろきのストレッチ式発声術』(講談社ブルーバックス)は、英語を話すときに必要な種々の筋肉の働かせ方、筋肉エネルギーの出し方・配分の仕方などについて具体的・科学的に詳しく述べています。本書のストレッチ式は、訓読式で省略された部分(英語リズムの等力的側面)を補う実践的な学習法です。

ストレッチ式では、口唇・舌・下あごなどの筋肉群を、日本語とは比べられないほど、しっかり働かせます。目標は、発音に関する筋肉群の可動域(運動範囲)を広げ、ネイティブ仕様に作り変えることです。

ストレッチ式で十二分に筋肉を働かせ、英語の声を出す面白さを味わってください。自分が出すおどろくほどネイティブな声に感動してみましょう! 

(ふじた・よしのぶ 京都府立医科大学准教授、英語英米文学)
読書人の雑誌「本」2014年10月号より

藤田佳信(ふじた・よしのぶ)
1950年、京都市生まれ。京都府立医科大学准教授(英語英米文学、文芸創作論)。1980年代より、ヨーロッパ構造主義言語学に刺激され、英語の話しことばについて研究。音声学・音韻論の英語学習への応用をテーマに、科学的側面からネイティブの口筋肉の動きを分析し、独自の「ストレッチ式発声法」を開発。著書に『司馬遼太郎とその時代』(上・下、延吉実名義、青弓社)など多数。共訳書に「ロシア紀行」(『スタインベック全集』第14巻所収、大阪教育図書、日本翻訳出版文化賞)。その他、雑誌・新聞にエッセイや長期連載など多数寄稿。

藤田佳信・著
「ネイティブ発音」科学的上達法 おどろきのストレッチ式発声術
講談社ブルーバックス/税抜価格:980円
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さよなら、カタカナ・イングリッシュ!
ネイティブ独特の「英語の響き」は、ダイナミックな口筋の動きと、メリハリを効かせた“省エネ発音”が生んでいる。日本語特有の「控えめな」筋肉の使い方から脱出して、英語らしく響かせる「口」と「舌」を手に入れよう。初学者はもちろん、中級以上の「壁」を破るのにも最適な「ストレッチ式」を、開発者が初公開!

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