雑誌
立花隆×清武英利「朝日新聞」問題 私はこう考える 特別対談120分 叩くほうにも問題はないのか

従軍慰安婦報道や福島第一原発事故に関わる吉田調書問題で混迷を極める朝日新聞の行方。メディアが朝日バッシングに走るなか、ジャーナリズムや新聞の在り方に精通した二人が鋭く語り合った。

誤報も社史で検証した朝日

立花 今回、あらためて朝日新聞批判を繰り広げている雑誌を集めて読んでみたのですが、たくさんありすぎて食傷してしまいました。

清武 SAPIOやWiLLといった、以前から激しく朝日新聞の論調と対立してきた保守系雑誌だけでなく、文藝春秋も『「朝日新聞」は日本に必要か』という臨時増刊を出していますね。

私がかつて勤めていた読売新聞も『徹底検証 朝日「慰安婦」報道』(中公新書ラクレ)を出したばかりです。

立花 それで私は、手元にあった朝日新聞の社史をひもといてみたんです。'95年に市販されたもので、全4分冊の箱入りという、大変な分量のものです。今日はそのなかの昭和戦後編というのを持ってきました。興味深いことに、ここには過去の誤報についても、ちゃんと記載されている。

清武 これですね。「伊藤律架空会見記」—。これは'50年、GHQのレッドパージにあって逃亡していた共産党の活動員・伊藤律に、朝日新聞神戸支局の記者が、兵庫県の山中で単独インタビューを行った、という大スクープだった。けれども実はすべてがでっちあげで、記者は伊藤律に会ってすらいなかった。

立花 この記事は取り下げられて、朝日の縮刷版からも削除された。しかし、社史には削除紙面の写真を含め3ページにわたって経緯を詳しく書いている。

読売新聞の社史には、自社の誤報についてきちんと書いてあるんですか。

清武 とくにそれを意識して読んだことがないので分かりませんが、誤報をことさらにまとめて、その経緯を書いた部分というのはなかったように思います。

立花 いずれにしても、朝日新聞というのは、自社の誤報をまるっきり歴史から抹殺してしまおうという会社ではない。どれくらい時間が経ってからになるか分からないけれども、今回の騒動も、やがて自分たちで検証して本にするだろうと私は思っているんです。

だいたい、あの会社は官僚的な組織で、ナベツネのようなカリスマ的存在が上にドンといて社論を一人で決めていくというような形を取っていない。上層部は、何年か経つとみんな入れ替わってしまう。そうなれば、「かつてこんな人たちがこんなことをやった」と客観視して書くこともできるでしょう。

清武 遅きに失した感はぬぐえませんが、8月5日、6日に従軍慰安婦に関する報道の検証記事が出たのも、まさにそうした構図ですね。

'80年代当時の上層部はすでに会社にいませんから、木村(伊量)現社長をはじめとする現幹部は、ここで謝って、問題を清算してしまおうとしたんでしょう。

立花 やはり、朴槿恵政権になってからの韓国は、外交カードとして従軍慰安婦問題を執拗に持ち出していますからね。米国の地方議会に対日批判の決議案を可決させたりと、動きがエスカレートしている。

木村社長は朝日のなかでは比較的、保守的な人として知られているようですが、それだけにこのままではまずいと感じたのでしょう。

清武 朝日が'82年の初報以来、取り上げ続けてきたことで、(従軍慰安婦を日本軍が強制連行したとする)吉田清治氏の証言が権威づけされ、世界に発信されたわけですからね。

ところが驚いたことに、この吉田証言についての朝日の報道は、調査報道ではなかった。初報は大阪版で出た、吉田氏の講演についての記事だということですが、講演の中身をまるまる信じて書いている。のちに産経新聞紙上で、歴史学者の秦郁彦さんが済州島の村々を訪ね歩いて、旧日本軍が本当に強制的に従軍慰安婦を集めたのかを検証した特集がありました。講演をうのみにするのとは次元の異なるフィールドワークです。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら