米軍によるシリア領内の『イスラーム国』拠点に対する空爆

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」 インテリジェンスレポートより
【はじめに】
日本外交は、国際政治の変動についていくことができていません。能力不足が故の孤立主義外交に傾いているように思えます。米軍のシリア領内の「イスラーム国」拠点に対する空爆についても、日本は非軍事的支援に限定する方針を示しています。集団的自衛権行使容認に踏み込んだにもかかわらず、非軍事的支援に限定するとは不思議な対応のように見えますが、それは去る7月1日の安倍内閣の閣議決定によって、自衛隊の海外派遣は従来よりも難しくなったからです。あの閣議決定がなければ、安倍政権が政治判断で、後方支援のために自衛隊をイラクに派遣する可能性が十分あったと思います。
イスラーム国に対するシリア領内の空爆を声明したオバマ大統領---〔PHOTO〕gettyimages

【事実関係】
9月22日、米軍はシリア領内のイスラーム教スンニー派武装集団「イスラーム国」の拠点に対する空爆を開始した。

【コメント】
1.
米国は、今回の空爆が宗教間戦争、文明間戦争になることを避けることに腐心した。そのため軍事行動には、イスラーム国家であるサウディアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、ヨルダン、バハレーンが有志連合として加わった。

2.―(1)
今回の空爆は、国連安保理決議もなければシリア政府の要請もしくは同意もない米国による一方的攻撃で、厳密に言うと国際法に違反する。

2.―(2)
しかし、「イスラーム国」の掃討には国連加盟国の圧倒的多数が賛成しているので、米国の行動を国連も国際社会も追認した。9月27日には英国、フランス、オランダ、デンマーク、ベルギー、オーストラリアも空爆に参加した。10月2日、トルコ国会は、同国が有志連合に加わることを承認した。

3.―(1)
今回、米国は空爆をシリアとイランに事前通報した。特に米国との国交が30年以上断絶され、敵対関係にあるイランに事前通報を行ったことは、「イスラーム国」の掃討作戦に関してはイランと協調したいというオバマ政権の意向を示している。

<国連総会出席のためニューヨークを訪問中のイランのロウハニ大統領は23日、「他国への攻撃は国連の枠組みで行われるべきだ」と牽制しつつ、空爆そのものの非難には踏み込まなかった。そこには、今後、正念場を迎える核開発問題をめぐる協議などを念頭に、イスラム国という「共通の敵」との戦いを通じて米国との接近を図る意図も見え隠れしている。>(9月24日 MSN産経ニュースより)

3.―(2)
確かにロウハニ大統領は、米国との対決を避ける発言をしている。しかし、イランはこの機会を利用して中東における自らの影響力を高めようと腐心している。9月23日、イラン国営「イランラジオ」が興味深いニュースを報じた。

<イランのザリーフ外務大臣が、地域でのアメリカによる対テロ連合に参加しないことを明らかにしました。ザリーフ大臣は、中国の国営テレビCCTVのインタビューで、「イランは、アメリカが主導する連合に参加しないが、テロ組織ISIS(引用者註:イラクとシリアのイスラーム国/ISの旧称)との戦いでイラク政府を支援する」と述べました。また、「あらゆる連合は、地域諸国の中から生まれるべきである」とし、「地域の危機の元凶は、地域外の圧力である。このため、この危機を、それを起こした首謀者と共に解決することはできないだろう」と語りました。

さらに、イランがイラクのクルド自治区を支援しているとする一部の報道について、「イランは、テロやあらゆる脅威に対抗する枠組みで、イラク政府や同国のクルド自治区を支援する」としました。ザリーフ大臣はまた、「イランは、イラクに対し軍備面での支援を行い、軍事面でのアドバイスをしているが、直接、軍事駐留をおこなっていない。なぜなら、この措置は、非建設的で危険を伴うからだ」と強調すると共に、「いかなる国への軍事的な駐留も、その国の国民の怒りや反対を引き起こし、新たなテロを勃発させる可能性がある」と述べました。>(9月23日 イランラジオ日本語版ウエブサイトより)

ザリーフ外相は、米国の国名を挙げることを注意深く避けているが、「地域外の圧力」という表現で米国を批判している。裏返して言うと、イランはアラビア半島に所在するわけではないが、地域内の国家なので、イラクやシリアに展開する「イスラーム国」の掃討作戦に貢献することができるという意味だ。

3.―(3)
イランは、軍隊をイラクやシリアに派遣することによって、民族的(イラク、シリアはアラブ人、イランはペルシア人)反発を買うことを懸念している。さらに、シーア派(12イマーム派)のイランがスンニー派の「イスラーム国」を攻撃することに対して、イラクとシリアのスンニー派が反発する可能性がある。だから、イラク政府というクッションを置いて、「イスラーム国」掃討作戦を展開しているという手の内を明かしている。

3.―(4)
「イスラーム国」の掃討をめぐって、イランはイラクを通じてアラビア半島における影響力を拡大するとともに、米国の圧力を緩和することに成功しつつある。このような状況を最大限に利用して、イランは核開発を進めることを意図している。米国は、イランの核開発を阻止しつつ、「イスラーム国」掃討では同国と協調していくという、綱渡り外交を余儀なくされている。・・・・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol046(2014年10月7日配信)より