世界経済
【第62回】マクロ経済安定化に重要な役割を果たす、予想インフレ率の「アンカー」
〔PHOTO〕gettyimages

日本では、国会が再開され、政策に関する与野党の論戦が始まった。注目は、維新、みんな、次世代、共産といった民主を除く主要野党がこぞって消費税率の再引き上げの見送りを主張し始めた点である。

これまで、社会保障財源の必要性、財政再建に対する国際公約、先送りすれば国債の大暴落につながるリスクなどから、消費税率引き上げに関しては、与野党とも、一部の議員を除き容認の姿勢が強かった。それが、民主を除く主要野党がそろって消費税率引き上げ反対の立場に変わったのである。来年には統一地方選を控えており、消費税と景気の問題が主要論点の1つに浮上してきた。

このように野党の立場が急激に変わったのは、4月の消費税率引き上げ後の日本の経済指標が軒並み悪化しているためである。

4月の消費税率引き上げ前、及び直後は、圧倒的大多数のエコノミストが、消費税率引き上げの影響は4-6月期の駆け込み需要の反動減を過ぎればほぼ払拭され、7月以降は再び景気は回復基調に戻っていくと主張していた。だが、月次の経済指標をみる限り、7月以降、景気は回復するどころか、逆に悪化しているようにさえ感じる。

消費税率引き上げ後の景気動向

さて、このような消費税率引き上げ後の景気悪化に関して、筆者は以前、2011年のイギリスの事例との比較を行った(第53回『イギリス経済は「正常な」水準に戻ったのか』、第56回『消費税ショック」から脱却しつつあるイギリス』)。その時の内容を簡単に整理すると、以下のようになる。

イギリスは2011年1月に、リーマンショック及び不動産バブル崩壊による金融システム危機後の景気悪化局面を脱したと判断し、緊縮財政へと舵を切った(リーマンショックとほぼ同時期にイギリスは不動産バブル崩壊から金融機関の破綻懸念が台頭し、不良債権処理に膨大な財政支出を費やし、財政状況が急激に悪化した)。消費税率(正確にいえば、VAT、付加価値税)の引き上げ(17.5%から20.0%へ)もその一環であった。

筆者はその直後にイギリスに出張したが、ロンドンを中心に、イギリスの人々は、消費税率引き上げに対しては無頓着で、むしろ財政再建の必要性を強調していた。そして、逆に、ロンドンの顧客の多くに、逆に日本の財政は危なくないのか、早く消費税を引き上げないといけないのではないかと問い詰められる始末であった。

だが、消費税引き上げ後のイギリス経済は緩やかに減速し、税率引き上げから1年後の2012年1-3月期から4-6月期にかけて実質GDP成長率はゼロ近傍まで下落した(リーマンショック後の回復局面では2%程度まで回復していた)。

これに対して、イギリス政府は緊縮財政を中止することはなかった。その代わりにイギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、2011年10月、2012年2月、7月と3回にわたって、国債購入額を逐次的に拡大させる量的緩和の再拡大に乗り出した。量的緩和政策再開による「流動性」供給増によって、イギリスでは、株価と不動産価格が上昇を強めていき、やがて資産効果から消費が回復し、イギリス経済は2013年から回復に転じ始めた。

このイギリスの事例に対する筆者のインプリケーションは、日本においても今回の消費税率引き上げによって景気の減速が見込まれるものの、タイミングはともかく、最終的には日本銀行による量的緩和が再開され(しかも複数回)、これが資産効果を通じて消費を刺激し、結果として景気は持ち直すのではないか、というものであった。

ただし、イギリスの事例からも明らかなように、景気回復局面に入るまでにはかなりの時間を要するかもしれないと考えた(イギリスの場合は追加緩和実施から1年超かかった)。そして、その結果、出口政策は当面は先送りされ(現執行部の任期中は無理かもしれない)、債券市場が機能不全に陥るリスクもさらに高まるだろうと考えた。

だが、当時のイギリスは経済・金融危機に直面したものの、デフレには陥らずに済んだ。金融政策による景気底上げという点では、デフレ状態とデフレではない状態とでは、その効果の波及経路や程度は大きく異なる可能性がある。

そのため、「10年超のデフレからの脱却途中での消費税率引き上げ」という日本の特殊事情を考えると、仮に、日本銀行が追加緩和を当時のイングランド銀行と同様の規模、及び回数実施したとしても、同様の効果が得られるか否かは疑問ではないかと考えるようになった。すなわち、今後、日本銀行は、2011年から2012年にかけてのイングランド銀行よりも大規模な追加緩和をやらざるを得なくなるのではないかと懸念している。

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