ドクターZは知っている

経常赤字危機を煽る人々を疑ってみると

2014年10月12日(日) ドクターZ
週刊現代
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目下の円安進行を受けて、日本の経常収支が赤字になる可能性が指摘され始めた。経常赤字化が続けば日本の財政に対する信認が失われ、国債が投げ売られるのではないか―。そんな経常赤字危機説まで飛び交うが、こうした言説をまともに信じていいのだろうか。

そもそも、日本が「貿易立国」であると思っている人は多いだろうが、実はそうでもない。輸出入額のGDP比を「貿易依存度」というが、それで見ると、日本は世界で190番目くらいに低い。米国と並んで最低ランクの部類だ。

貿易立国のイメージを持つ人は、日本が輸入したものに付加価値をつけて輸出し、それで稼ぐと考えている。実際、小中学校の中にはそう教えるところもある。その場合、経常収支の黒字は国の「稼ぎ」に相当するので、これが赤字になると国家の一大事となる。

しかし、経済学では、経常収支は国の「収益」とは無関係。単に輸出などと輸入などとの差額でしかないと考える。実際、経常収支赤字をある程度続けても、経済成長に支障がない国はたくさんある。オーストラリア、デンマークなどの経常収支は第2次世界大戦以降、だいたい赤字であるが、立派に成長している。データから見れば、経常収支と経済成長には何の関係もない。

経常収支が黒字でないと気が済まない人たちのことを、経済学では「重商主義者」といい、それらの人の主張がいかに馬鹿げているかということを解明したのが経済学の歴史である。要するに、経常収支が赤字でも黒字でも立派に成長すればいいのだ。

もっとも、経常収支赤字がいくらでも続いていいとは言わない。経常収支赤字が多額で長期にわたると問題がでてくることもわかっている。経常収支赤字は、対外債務を背負うからだ。しかし、今の日本では対外債権を300兆円も持っている。毎年5兆円の赤字でも60年間は大丈夫という数字だ。だから今心配すべきことではない。

日本の経常収支はなぜ減少しているのだろうか。

ちょっとまともな分析をすれば、日本の製造業がグローバルの競争に負けているからというのではなく、日本の景気が以前よりよくなったので輸入が増加していることが主因であることがわかる。原発再稼働が実現しないことによる燃料輸入の急増と言う人もいるが、それはたいしたことではない。

経常収支悪化を騒ぎ立てる人たちは、経常収支が悪化すると財政の信認が失われると主張するとともに、原発再稼働が早く行われないとさらに経常収支が悪化すると主張している。

しかし、前者の財政信認について考えると、信認が失われれば金利が上昇するはずだが、実際は経常収支と金利はまったく関係がない。現に今の日本でも金利は上昇していない。後者の原発再稼働についても、前述したとおり、経常収支と原発再稼働はほとんど関係がない。

何のことはない。消費増税や原発再稼働をしたい人々が、経常赤字危機説を煽っているだけなのだ。

経常収支なんて国民生活には当面関係ないことさえ知っていれば、聞き流してもいい。それでもしつこく言ってきたら、財政信認が失われた証である金利上昇が起こっていないことと原発再稼働と経常収支の悪化は無関係であることの二つの事実を言い返したらいい。経常収支をダシに使っているだけで、増税して原発再稼働して、うまみを吸いたい人たちの意見に耳を傾けるのは無用である。

『週刊現代』2014年10月18日号より

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