「講座:ビジネスに役立つ世界経済」
【第61回】 ビル・グロース氏とウォーレン・バフェット氏、対照的な2人の投資戦略を考える

〔PHOTO〕gettyimages

「為替ヘッジなし」型ファンドのリスクは大きい

世界には、何人かの「投資のカリスマ」が存在する。そのなかで、「債券王」の異名をとり、運用業界に君臨してきたビル・グロース氏が、自らが創業したPIMCOを離れ、ジャナス・キャピタルへ移籍することが9月26日に判明し、話題になっている。特に、米国では、その衝撃は大きく、グロース氏が退社することによるPIMCOの運用資産の解約、それにともなうPIMCOの大量の債券売りの思惑から米国の長期金利が上昇したくらいである。

ビル・グロース氏は、債券運用だけではなく、マクロ経済分析の分野におけるオピニオンリーダーでもあった。リーマンショック後の世界経済の構造変化を「ニューノーマル」ととらえ、世界的に長期的な景気低迷が続き、長期金利も低位で推移するとの見通しが世界の投資家のみならず政策当局者にも大きな衝撃を与えたことは記憶に新しい。

もっとも、リーマンショック後のグロース氏の運用パフォーマンスは芳しくなかったようだ。特に、昨年の「バーナンキショック」以降の米国長期金利の上昇、その後、一転しての長期金利の低下を見通すことに失敗したため、彼のファンドの運用利回りは悪化し、資金流出はいまなお続いている模様である。

グロース氏にかぎらず、マクロ経済の将来の方向性にベットする(賭ける)度合いの高いファンドのパフォーマンスは予測の的中度に左右されやすい。また、現在のようにマクロ経済の方向性が定まらない状況では、合議制でマクロ経済予測を議論していたのでは、経済の動きにとてもではないがついていけない。

下手をすれば、「マクロ経済見通し会議」の議事録をまとめているうちに経済の展開が大きく変わる事態もありうる。そのため、マクロファンド成功の条件は、「カリスマ」的なCIO(最高投資責任者)がトップダウンでマクロ経済予測を立て、それに基づく投資戦略を採用することではないかと筆者は考える。だが、この場合、CIO当人が見通しを大きく間違えてしまうと、ファンド全体のパフォーマンスは決定的に悪化してしまう。

筆者の印象では、最近のビル・グロースが提示する経済見通しとそれに基づく米国長期金利の見通しは実際の動きとほぼ逆であった。これがポジショントークでなければ、彼の見通しの誤りがファンドのパフォーマンスにかなり大きな影響を与えていた可能性が高く、このため、社内からもかなりの批判を浴び、これが今回の退社劇につながったのであろう。

ただ、ファンドのパフォーマンスが振るわないのはビル・グロース氏にかぎったことではない。彼の所属した大手ファンドに比べ、はるかに機動性に富み、フレキシブルな運用が可能なはずのヘッジファンドのパフォーマンスも今年は振るわない。

「CISDM(Center for International Securities and Derivative Markets)」が毎月集計しているヘッジファンドの収益率データベースによれば、マクロ経済の先行きを予測してその方向性にベットする「グローバルマクロ」型のヘッジファンドの年初来の平均的な収益率は8月末時点で、わずか0.19%となっており、調査が開始された1994年以降で最悪のパフォーマンスである(ちなみに「グローバルマクロ型」のヘッジファンドは、リーマンショックが発生した2008年には3.71%の収益率を記録している。ただし、途中で廃業したファンドは含まれておらず、生き残ったファンドのみのパフォーマンスであるため、数字に上方バイアスがかかっている可能性がある)。

このように、マクロ経済の方向性にベットする投資戦略は、成功した場合には莫大な収益を上げることが可能になるが、予測を誤れば逆に莫大な損失を被ることにもなりかねない種類の運用商品であることに注意すべきであろう。

特に、グロース氏ほどのベテラン投資家が読み間違える債券市場の利回りの予測、しかも複数国の予測のパフォーマンスに依存する為替レートの方向性にベットした「為替ヘッジなし」型のファンドのリスクは大きいことに留意すべきであろう。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら