雑誌

「普通のサラリーマン」だった私は、定年からたった10年で破産した

16人に1人が直面する老後破産
週刊現代 プロフィール

「高齢者にとって、健康問題は避けることはできません。それまで元気でも急にひとりで動けなくなる人もいますし、90歳を超えるとおよそ半数が認知症になると言われています。

家族と離れて暮らしていれば、健康の変化がなかなかわからない。そのため、周りの人が気づいたときには、破産に至っていたというケースは決して少なくありません」

子や孫には言えない…

実際、本誌が取材した中で次のような事例があった。

愛知県に住む浅田隆さん(仮名/73歳)は、大学卒業後、警備会社に就職し、定年後も再雇用制度を利用し、働き続けていた。しかし、腰痛が悪化して欠勤の日が増え、会社にいづらくなって、2年で自主退職。以来、退職金と年金収入のみで暮らすようになる。

そんな浅田さんが破産にいたるまで、10年もかからなかった。浅田さんを保護したNPOの担当者が語る。

「浅田さんの場合、腰痛の治療費に加え、退職後しばらくしてから、軽度でしたが、認知症を発症したのが、破産にいたった大きな要因でした」

 

浅田さんは妻を60歳のときに亡くし、子どもも離れて暮らしていたため、誰も苦境に気づかなかった。

「息子さんも盆や正月に帰省したときに『少しカネ遣いが荒くなった』とは感じていたそうですが、『やっと退職したんだから自由にさせてあげよう』と放っておいたそうです。

しかし、判断力の低下による無駄遣いや保険の使えない鍼治療などで、あっという間に退職金は底をついてしまった。食うや食わずの生活をしていた浅田さんが万引きで捕まったときに、私たちの団体に引き渡されて、破産がやっと発覚したんです。

捕まったときも『子どもや孫には恥ずかしいから言わないでくれ』と懇願されましたが、連絡を取りました。面会に来た息子さんに対して、『たった10年でどうしてこんなことに』と嘆いていました」

破産に至るきっかけは、病気だけではない。頼りになるはずの子どももリスクになりうる。

神奈川県に住む小野雅俊さん(仮名/69歳)は、都内の建築設計事務所の正社員として定年まで勤め上げた。現役時代は、よく働きながらも、同僚と飲んだりと、サラリーマン生活を謳歌。退職時には、退職金を含めて2500万円ほどの貯金と、株券や保険などを合わせて総額4000万円程度の資産があった。小野さんが語る。

「家は持ち家だし、庭の畑で野菜を作っているし、生活費は光熱費とガソリン代、そして趣味のゴルフや付き合いの飲み代くらいなものでした。二人の子どもたちも独立しており、何年も前にローンは完済。いままで懸命に働いてきた分、『さあ、これから老後を楽しもう』と暢気に考えていました」

そんな小野さんが「いまほど苦しい時期はない」と語るようになるまでに、何が起こったのか。小野さんが続ける。

「きっかけは、すでに独立し家庭をもっていた息子が起こした交通事故でした。100%こちらに責任のある事故で、相手は障害を負ってしまいました。しかも、運の悪いことに、息子は1ヵ月前に保険が切れていたんです。慰謝料に1000万円、相手に治療代や入院費、障害が残ったことで必要になった家の改築費など、総額で5000万円も相手から請求されました。これをすべて払わないといけない。裁判をしても仕方ない、息子の過失責任は逃れられないと覚悟し、そのまま払うことにしました」

毎月30万円の賠償金を払うため、息子の給料は、ほぼ天引きされている。子どものいる息子家族は、住んでいたアパートを出て、小野さんの一軒家に同居することになった。小野さん自身も、貯金や保険をすべて解約したが、5000万円には到底足りなかった。

「大事にしていたゴルフクラブもまとめて売りに行きました。何十万円もしたパターが、2000円という悲しくなるほど安いカネにしかならず呆然としましたよ。会社時代の人間関係も、カネがかかるので畳みました。正直なところ、当初は『こんなことがあっていいのか』と、相手を随分と怨みました。

ですが、責任を重く感じた息子が、休みの日もトラック運転手のアルバイトをしている姿を見て、私も生きているうちに出来る限り助けてやりたいと思うようになり、早朝のチラシ配りのバイトをはじめました」

現在、小野さんはチラシ配りに加えて、隣町にあるコインパーキングの管理人のバイトもしている。孫を含めた一家5人にとって、小野さんの年金は、大きな収入源のひとつだ。