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「普通のサラリーマン」だった私は、定年からたった10年で破産した

16人に1人が直面する老後破産
週刊現代 プロフィール

いったい破産世帯はどれくらい存在するのか。河合克義明治学院大教授が語る。

「私たちが実施した東京都港区と山形県における調査では、生活保護基準よりも低年収である高齢世帯の割合がどちらも56%と、高齢世帯のほぼ半数にのぼることがわかっています。現在、一人暮らしの高齢世帯はおよそ600万人。推定で300万人が低年収世帯と言ってよいでしょう」

そこから、生活保護を受給している高齢世帯を差し引いた、200万以上もの人々が老後破産の状態にあると推定される。日本全国で65歳以上の高齢者の数は3200万人。およそ16人に1人が老後破産の状態にあり、独居高齢者に限れば3人に1人にも上る。

友達もいなくなり

前出の番組で紹介された破産の当事者の姿は衝撃的だった。

 

番組の冒頭、カメラは東京都港区のアパートに住む田中樹さん(仮名/83歳)のもとを区の相談員とともに訪れる。全国的に見て高齢世帯のうち単身世帯の割合が高い港区では、孤立対策として聞き取り調査を行っている。

カメラに映し出されたのは、ゴミ屋敷になる一歩寸前までモノが散乱し、足の踏み場もない一室。そこで田中さんは、小さく縮こまっている。痩せていて、顔に覇気がない。心配した相談員が尋ねる。

—暮らしぶりはいかがですか?

「ぜいたくはできないねえ」

—もしかして電気止められていませんか?

「そのままにしています。夕飯の仕度をするときはガスの炎を頼りにすれば、なんとか調理できるよ」

—ちゃんと食べれていますか?

「こういう時が来るんじゃないかと思って、ひやむぎを買い置きしておいたんだ。それでなんとか助かっているよ……」

田中さんの頼みの綱は、会社員時代に払った厚生年金を含めた月10万円の年金収入だ。家賃6万円を引けば、4万円しか残らないため、一日500円以下の切り詰めた生活を送っている。

田中さんは、特に変わった経歴の持ち主というわけではない。ビール会社で正社員として23年間働いたのち、40代半ばで独立し、飲食店の経営をはじめた。だが、赤字が続いて倒産し、退職金も使い果たした。

田中さんは番組スタッフに一枚の絵を見せた。黒い背広を着て、口ひげを生やした男性の肖像画。絵が趣味だった田中さんが「社長となった自分の老後」を想像して描いたものだ。

「まさか(現実が)こんなことになるとは夢にも思っていなかったね」絵を見つめ、こうつぶやく田中さんにいまの生活で何が一番辛いか、と番組のスタッフが尋ねる。「友達がいなくなったことだね。貧しさを知られたくないから、付き合いを避けてしまった」

年金支給日の前日、食べ物を買うカネも尽きた田中さんは、部屋で横たわったまま動かない。

「やることはすべてやったんだから、早く死にたいというのが正直なところです。でも自殺するわけにもいかないしね。いま抱えている不安をなくすためには、死んじゃったほうがマシだ……」

彼らは決して特異なケースではない。普通のサラリーマンであっても、老後破産状態に陥る可能性はある。そう警鐘を鳴らすのは山田知子放送大教授だ。

「たとえ大企業の部長職まで出世した人であっても、老後破産と無縁というわけにはいきません。住宅ローンを退職金で払い終えたら、残りの金額は心もとないという方は多いのではないでしょうか。

当然、中小企業のサラリーマンはもっと危険で、年金収入のみに頼る状態では、いわば薄氷の上を歩いているようなものです。親の介護や子どもの就職失敗など想定外の出来事で、当初の予定が容易に崩壊するからです」

多くの人は、何をきっかけに破産に追い込まれるのか。まず直面するのが、自身の健康問題だ。西垣千春神戸学院大教授が解説する。