新・赤い帝国
中国「最新兵器&脅威の軍事力」

軍事費は世界第2位の約7兆円。
超大国はどこへ向かうのか

 中国・山東省莱蕪市に、日本を射程内に収める中距離弾道ミサイル「東風21」を配備した部隊が存在している―。こんな驚くべき事実が報じられたのは、3月21日のことだ。

'07年11月、防衛交流の一環で、中国軍艦艇としては初めて来日したミサイル駆逐艦『深圳』(東京・晴海埠頭)〔PHOTO〕菊池雅之

 そのニュース・ソースは、東アジア情勢に詳しいカナダの中国語軍事専門誌『漢和防務評論』4月号。同誌によると、中国は'05年、中台関係が悪化したのを受けて、同部隊の配置を決定。

 台湾と戦闘状態になった場合に備え、台湾に与するであろう在日米軍への攻撃力を強化するのが目的と分析されるという。

 中国は遼寧省・安徽省に戦略核ミサイル部隊を、吉林省にも日本を射程に収める中距離弾ミサイル部隊を置いていると言われる。戦争放棄を憲法で謳う日本にとっては、軍事衝突など絵空事に過ぎないかもしれない。だが、"21世紀の赤い帝国"中国は、安閑とした見方をとっているわけではないのだ。

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「'10年度の国防予算案は前年実績比7.5%増の5321億元(※日本円に換算して約7兆円)になる」

 中国の国務院前外交部部長(外相)で、3月5日~14日に開催された第11期全国人民代表大会の報道官、李肇星氏は、大会前日(4日)の記者会見で、国防予算案についてこんなふうに明かしてみせた。

 その最大の眼目は、国防費の前年比伸び率が22年ぶりに、一ケタ台に収められたことを内外に強調することだったと思われる。国際社会に対しては年々高まる中国脅威論に配慮した恰好で、国内に対しては「軍事費膨張よりも一般国民の生活改善を」と不満を募らせている層を懐柔する狙いがあったのだろう。

 だが、国防予算が抑えられたといっても、それはあくまで前年比の話。次ページのグラフをご覧いただくと、中国の国防費が最近22年間でいかに急伸したかは一目瞭然である。

 スウェーデンの研究機関、ストックホルム国際平和研究所の調べによれば、世界の軍事費総額のうち、中国は'07年に世界第3位、'08年には同2位に浮上している(※ちなみに日本は'08年5位、'07年7位)。

 内訳を見ると、第1位の米国がダントツの40%強を占め、中国は6%前後に過ぎないのだが、かくも軍事的膨張を続ける中国に対して、諸外国は警戒感を露に。

 米国防省は3月3日に発表した国防省作成の年次報告書に、懸念材料として「中国の国防費が伸び続けていること」を記しているほか、英国国際戦略研究所も'10年度分の報告書で「経済危機のあおりで多くの国が軍備費削減を迫られる中、中国は急速な軍拡を続け、従来の『国土防衛』から『軍事力の世界展開』へと戦略を転換させている」と中国の軍拡路線を分析している。

▲'09年度の『防衛白書』をもとに作成。米国防省が'09年に公表したデータなどに拠り、日本は'08年度末の実勢力。( )内は師団、旅団など基幹部隊の数の合計を指し、北朝鮮については師団のみとなる
▲'09年度の『防衛白書』と、中国が公表した'10年度国防予算をもとに作成。3月22日現在、1元=13.19円。'10年度の国防予算は、日本円に換算すると5321億(元)13.19=7兆184億(円)となる

 しかも、それだけではない。中国の公表している国防費は不透明な部分が多く、軍事専門家の間では「公表数字の2~3倍に達するのではないか?」と指摘されているのだ。

 軍事評論家の岡部いさく氏が語る。

「中国の国防予算には、兵器の研究開発費の大半や、約1兆8000億円を投じると言われる航空母艦建造費などは算入されていませんし、弾道ミサイルによる衛星破壊実験の費用さえも『平和利用にあたる』との理由で計上されていません。
  各国ともある程度は内訳を公表するものなのに、中国のスポークスマンは『人件費、装備費用、新しい武器の研究・購入費用でそれぞれ3分の1』と、アバウトな発表で済ませているのです。諸外国を刺激しないため、兵器の研究開発費などを別項目にしたりといった手口で、国防予算を実際よりも少なめに発表していると推察されます」

 '04年からの自衛隊イラク派遣で"ヒゲの隊長"として注目を集めた元陸上自衛官、佐藤正久・参議院議員(自民党)はこう語る。

「最近、中国では『国防動員法』が作られたのですが、これは非常時に予備役応召や民間物資の調達を行えるというもので、男性は18~60歳、女性は18~55歳まで徴用できるとしました。そもそも中国では、こんな法律を作るまでもなく、やるとなったら超法規的措置でやれてしまう。
  にもかかわらず、わざわざ法制化したのは、本当の狙いが、経済発展によって平和慣れした国民の"タガを締めること"であることを指し示している。こうしたところからも、中国における軍部の発言力がいかに強いかが窺い知れます」

ミサイル・戦闘機を国産化

 近年の中国がめざましい経済発展を遂げていることも、軍拡路線を後押しする要因となっている。全国紙外信部記者が解説する。

「3年前までGDP(国内総生産)は米国・日本・ドイツ・中国の順でしたが、中国は'07年にドイツを抜いて世界第3位になり、今年中には日本を抜いて2位となる見込みです。中国も世界的金融危機の影響を受けはしましたが、最も立ち直りが早かったのです。
  経済面でようやく世界のトップクラスとなってきたうえに、軍事面でも強大な力を見せつければ、米国と並んで世界を二分できる。中国政府の首脳はそうした将来的な読みを働かせているのです」

 世界に覇を唱えるための軍事力と、明確な位置づけをしている中国政府は、軍備の近代化、ハイテク化を急速に推し進めている。それを強烈に印象づけたのは、昨年10月1日に北京で行われた10年ぶりの軍事パレードだ。

「最も注目されたのは、大陸間弾道ミサイル『東風31A』でした。これは射程1万2000kmを誇り、米国の東海岸にも届きます。さらに、中距離弾道ミサイル『東風21』や巡航ミサイル『長剣10』といった、日本を射程に収めるミサイルも登場しました。
  『長剣10』は核弾頭搭載可能で、計300発前後がすでに配備済みと言われています。世界が注視する中でミサイルを見せつけてきたということは、中国が自国のミサイル開発に自信を示したことの表れと解釈できます」(前出・岡部氏)

中国初の国産戦闘機『殲撃10』。中国の軍関係者は同機を「国家の成功の証」とし、盛んにPRしている 〔PHOTO〕柿谷哲也

 空軍力も飛躍的な伸びを見せている。中でも特筆モノなのは、'07年に開発に成功した中国初の国産戦闘機『殲撃10』だ。日本の軍事専門誌『軍事研究』の関係者が語る。

「もともと中国は、在日米軍や航空自衛隊の『F15』に対抗する戦闘機として、ロシアの『スホーイ27』をライセンス生産した『殲撃11』を主力機としていました。
  しかし、中国は超大国としてロシアの風下に居続けたくはないと考えているようで、次世代機を国産とすることが悲願でした。そうした経緯から開発された『殲撃10』は、米軍の主力戦闘機『F16』と肩を並べるほどの性能を誇り、中国軍の成功の象徴と謳われています。
  また、中国空軍は米軍の『F22』に対抗する『J14』ステルス戦闘機の開発と10年後の実戦配備も目指しており、これら最新鋭兵器の拡充による制空権の確保を急いでいます」

 さらに、中国海軍は'08年12月、6万tクラスの航空母艦2隻を、日本円にして約1兆8000億円かけて新造することを表明している。前出・岡部氏が語る。

「中国が空母建造に固執しているのは、'96年に台湾の総統選に圧力をかけようとした際、米国が台湾周辺に空母艦隊を進出させてきたため、何の手出しもできなかったというトラウマがあるからです。
  そうした米国への対抗心とともに、東シナ海の防衛と、同海域のエネルギー資源を確保するため、自前の空母艦隊でシーレーン防衛をやりたいというわけです。空母の完成は'15年頃、訓練を繰り返して実戦配備するのは'25年頃になると思います」

 日本と米国は無策に等しい。前出の佐藤議員も「空母建造は中国の覇権狙いを如実に表している」とし、こう続ける。

「中国は将来的に、東シナ海を含めた西太平洋と、中東・アフリカの資源を獲得するうえでの重要貿易ルートにあたるインド洋のシーレーン防衛を制覇するつもりなのでしょう。昨年6月、中国は沖ノ鳥島周辺で軍事演習を行いましたが、これは中国が『あれは単なる岩礁に過ぎない』とし、日本の領土とは認めていないとしたうえでの蛮行でした。
  つまり中国は第1列島線(薩南半島‐沖縄‐尖閣列島)から第2列島線(伊豆諸島‐小笠原諸島‐硫黄島‐マリアナ諸島)の海域に進出することに、もはや躊躇していないのです。中国が空母艦隊をもって西太平洋・インド洋の制海権を握れば、米国はアジア海域に手を出せなくなるし、中東からの石油輸入に依存する日本にとっても極めて重大な事態となります」

 また、目に見えない最新兵器として、中国が宇宙やサイバー空間での軍事革命(RMA)を急速に進めていることも見逃せない。

「中国軍は今後の重点分野の一つに、『サイバー攻撃能力の開発』を挙げており、実際に昨年12月中旬、米国のインターネット検索大手、グーグルが中国からサイバー攻撃を受けたとされる一件が持ち上がりました。
  米国側は中国軍の関与を疑っており、ニューヨークタイムズ紙も『サイバー攻撃は中国軍の支援で設立された、山東省のコンピューター技術者養成学校などから発信されたことが確認された』と報じています」(前出・外信部記者)

 宇宙戦略に関しては、中国軍が昨年11月、「空天一体」という戦略を打ち出したことが注目される。これは、偵察及び軍事攻撃衛星などを連動して軍事行動に活かすことを意味し、宇宙と空を制すれば「海」「陸」での作戦を容易に制することができるとしている。

 こうした中国の止めどなき軍拡に対して、日本と米国は無策に等しいと言わざるを得ない。普天間基地移設問題などで、日米間に不協和音が聞こえているのは周知の通り。鳩山由紀夫首相は基地移設問題について「5月までに結論を出す」としているが、指導力のなさから大モメとなるのは必至の情勢だ。

 さらにオバマ大統領にしても、イラク、アフガニスタン問題で手一杯なうえ、医療保険制度改定問題や低迷が続く経済問題など国内の課題が山積みであるため、現時点では中国とコトを構えたくないのが本音。結局のところ、中国の好き放題にさせるしかないのが実情だ。

 中国の経済や軍事に精通する、民主党の海江田万里・政治改革推進本部事務局長が語る。

「中国も都市部と農村部の経済格差、汚職問題、民族問題などを抱えているため、今後は国家予算を軍事力優先で振り向ける余裕がなくなってくるはず。
  そういう意味で、米中の軍事衝突など、危機的な状況が生じる可能性は限りなく低いと思いますが、東アジア情勢が極めて危うい均衡の上に成り立っていることは事実です。日本でも、今後の防衛問題をいかに考えるか、議論百出するでしょう」

 虎視眈眈と覇を狙う超大国・中国。その動向が世界情勢を左右することだけは、間違いないようだ。

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