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インテリジェンス対談 竹内明×濱嘉之 日本の公安警察VS.中国スパイ これが本当の最前線だ

日中対立の最前線は、尖閣諸島だけではない—。日本国内で政財界に食い込み暗躍する中国諜報員たち。彼らと公安の戦いを描く新刊『背乗り』の著者・竹内氏が元公安捜査官の作家・濱氏と語る!

ごく普通の会社員が標的に

竹内 いま、日中関係は過去に例のないほど悪化していると言われます。尖閣諸島の領有権や歴史認識を巡って両国の緊張が高まっていることは、私たち一般国民にも日々、伝わっています。一方で、普段は国民の目に触れることのないウラの世界、つまりインテリジェンスの世界でも、緊張が高まっていますね。

濱 ええ。日本国内における中国の諜報活動はますます活発になってきています。

彼らの実像は、世間で「スパイ」と言ったときにイメージされる、007のような姿とは、大きく異なっている。いま、中国の情報機関が力を入れているのが、産業スパイです。一般の日本企業が持っている技術情報が、中国という国家に狙われているわけです。

竹内 冷戦時代のスパイとはまったく異なる存在ですよね。外交や安全保障に携わる人々だけでなく、我々一般人が標的になる。ごく普通のサラリーマンが、気がつけばスパイ事件に巻き込まれている可能性もある。

濱 そうです。もちろん、国家的な機密情報が狙われているのも確かですが、航空・ロケット関連の技術、新幹線や原発などにかかわる企業には、中国の情報機関が盛んに工作を仕掛けている。さらに、最近では水や空気を浄化処理する環境技術や、野菜工場など最新の農業技術を持っている企業も狙われています。

竹内 環境技術や農業技術などの分野では、中小企業やベンチャー企業が技術を持っている場合も多いですね。情報保全の面で脇が甘いと、すぐに技術情報が流出してしまう。

濱 中国の狙いは、そうやって盗み出した先端技術を、自国発の技術と喧伝して、アフリカや中南米など、特許の権利意識が低い途上国に安く売り込むことです。

とくに近年、アフリカ諸国への中国の進出は盛んで、巨額の資金や技術の提供を打ち出して、大型公共事業を次々受注している。石油資源やレアメタルを狙って、内戦の混乱がつづいたスーダンへの進出を'90年代から加速させていたことはよく知られています。

竹内 地下資源がとくに豊富な南スーダンが独立したことで、思惑が少し外れたようですけれども。

濱 ええ。それにしても中国の考えていることは壮大です。たとえば新幹線と原発の技術を彼らが獲得すれば、何ができるか。新幹線を貨物列車として利用し、「貨物新幹線」にして、ウラン鉱山と原発を結ぶネットワークを構築する。

その建設から運用までを丸抱えして儲けることができるわけです。中国はすでに、ナミビアのウラン鉱山に多額の投資を始めていますしね。

竹内 警視庁公安部で、中国や北朝鮮を担当する外事二課の動きをウォッチしていると、中国スパイの典型的な手口が見えてきます。

たとえば、中国の産業スパイは、貿易会社のバイヤーなどを装って、東京ビッグサイトや幕張メッセで行われる企業の技術展示会に現れる。

「この技術はすばらしい、ぜひ我が国に紹介したい」

と話しかけられて、中小企業の営業担当者や技術者は、よろこんで名刺交換してしまう。すると後日電話がかかってきて、「どうです食事でも」と誘われる。金品の授受が始まり、やがては大した罪の意識もなく、「これくらいいいだろう」と技術情報を流出させてしまう……。

濱 それは何も中小企業だけの問題じゃない。日本の公安警察は経団連のような大企業の集まる企業団体主催のイベントや名刺交換会にも目を光らせています。中国の公使や大使の取り巻きが、誰と名刺交換したか。誰と親しく話していたか。

そこで注目した企業の内部の人間と捜査員が連絡をとっていると、やがて「例の中国の大使館員が工場見学に来ると言っている」などという情報が飛び込んでくる。

ややこしいのは、最近のホールディングス化された企業で、せっかく技術を持つ傘下の企業と捜査員が連絡をとって、予防線を張っていても、持株会社の社長室長に中国の情報機関員がくっついたりすると、いつの間にか工場見学に入って、撮影禁止の場所で記念撮影していたりするんですよ。

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