スコットランドと起きていることと沖縄で起きていることはパラレルである
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」 文化放送「くにまるジャパン」発言録より

深読みジャパン

伊藤: 菅官房長官は一昨日、沖縄県を訪れ、アメリカ軍普天間飛行場の移設先となる名護市辺野古の沿岸部をヘリコプターで視察しました。内閣改造で新たに設けられた沖縄基地負担軽減担当を兼務してから初めての訪問で、普天間飛行場の移設を計画どおり進めるための環境を整備する狙いがあります。視察の後、菅官房長官は那覇市内で、沖縄県の仲井眞知事と会談しました。

佐藤: このニュースを聞いて、いちばんのポイントは何かというと、現地をヘリコプターで視察しているということなんです。もし地元の納得を得るためなら、これは陸路で入るわけです。あるいは、仮にヘリコプターで現地に行くにしても、ヘリコプターから降りて、地元の人たちとの意見交換をする。地面から見て初めて、様子というものはわかるわけです。

それをヘリコプターで行くというのはどういうことかというと、陸路ではいけないような状態になっているということなんです。陸路で行ったならば、恐らく辺野古の周辺に近づいたところで反対派の住民にたちに囲まれて、クルマが身動き取れなくなる。それで機動隊の出動を要請するということになる。それを警戒して、ヘリコプターで行くことになった。

邦丸: ほお。

佐藤: だから今回菅さんが行ったことによって、政府はいかに自信がないのかということが可視化されちゃったわけですよ。ですから琉球新報も沖縄タイムスもものすごく厳しい論調になっています。行ったことは、明らかに逆効果です。

特におもしろいのは、下地幹郎(しもじ・みきお)さんという民主党政権の郵政民営化担当相だった人がいますね。

邦丸: 国民新党の衆議院議員だった人ですね。

佐藤: この人はもともと県内移設の立場で、嘉手納基地に統合ということを言っていて、その後、大臣のときは辺野古移設へ回帰しているわけですよね。この人が今、県民投票をやろうと、スコットランドみたいなことを言っているわけですよ。しかも、「私は独立派ではないけれど、県民には独立という選択肢もある」なんて言っているんです。

下地さんのようなポピュリストが、独立カードを切り始めている。それぐらい、沖縄の県民感情が変化している。こういうような状況になっているわけですよ。政府はその雰囲気がわからない。

邦丸: うーむ。

佐藤: イギリス人は、スコットランド人の気持ちがなかなかわからないんです。私はイギリスに留学していたでしょ。最初に、スコッチウイスキー以外のことでスコッチという言葉を使ったら大変なことになるということを教えられました。


邦丸: それは差別になるんですか。

佐藤: 露骨に差別することになります。小バカにしていることになるからと、イギリス人からもスコットランド人からも最初に注意されました。スコッチという言葉を使うな、スコッツ(scots)と言いなさい、と。

邦丸: へえ~。

佐藤: あるいは、報道では表れていないんだけれど、イギリスにはイギリス国教会というものあるんですね。女王様が同時に教会の長でもある。スコットランドでも元は国教会、今は公教会というんですけれど、イギリス国教会とはぜんぜん違う教会があるんです。これは長老派といって、カルヴァンの系統で、かつてのピューリタンの系統なんです。今回の対立の背景には、実は宗教もあるんですね。だから、ものすごく難しい。

ただ、いちばん大きいのは言語です。民族と関係するのは言語なんです。大雑把に言って、独自の言語を持っている人たちというのは、民族になる可能性があるんですね。実際に民族国家を持つことができるのは、そのうちの1割しかないんです。

邦丸: へえ~。

佐藤: だから、ひとつのネーションステート/国民国家ができている背景には、9つの潜在的に「自分たちは国民国家になりたい」という思いを持っている人たちがいるということなんです。これは、イギリスの社会人類学者のアーネスト・ゲルナーが『民族とナショナリズム』(岩波書店)で述べている説なんですが、専門家の間では非常に説得力のあるものとしてとらえられています。

スコットランドは、独自の言語があるわけなんですよ。最近、その言語の復興が始まっている。都市化、近代化のなかで英語に席巻されてしまった、自分たちの言語が奪われているんだという意識がすごく強くて、それを回復したいという思いが、独立とすごく関係しているんです。

そうすると、東京ではぜんぜん報道されていないんですけど、昨日9月18日というのは、沖縄では「しまくとぅばの日」という琉球語の日なんですよ。

邦丸: しまくとぅば。

佐藤: 島の言葉という意味です。昨日の琉球新報の社説でも取り上げています。自分たちの沖縄の名誉と尊厳を守り、辺野古移設のような政策を阻止するためにももう一回、島言葉「琉球語」の復興が必要だということが書かれています。

このように、スコットランドと起きていることと沖縄で起きていることがパラレルなんです。沖縄の人口は約140万ですから日本の1%、スコットランドはイギリスの10%。スコットランド人が10%ぐらいになっても、イギリス人との間でお互いに何を考えているのかをわかり合えていないのだから、ましてや1%では、なかなか沖縄以外のところでは沖縄の感覚がわからないんですよね。

この辺のギャップがあって、東京の中央政府に悪気はないんだけれど、沖縄の気持ちをたとえば菅さんが逆なでしている。これが積み重なると、独立という方向に本当に行っちゃうんです。

日本の0.6%の陸地面積しかないところに74%の基地があるということ、そしてそもそも辺野古沖に恒久基地をつくるなんていうことは言っていなかった話だし、2019年までに普天間を閉鎖すると言ったってアメリカはそうしないと言っているわけですから、政府が切ったのは空手形になるということはもう見えているわけです。

そういうふうに次から次へと神経を逆なでするようなことは、いい加減にやめればいいと思うんだけれど、これはわかっていないからやっていることなんですね。悪気はないから、逆に改まらない。すごく大変です。

邦丸: うーむ。

佐藤: 沖縄県知事選が11月にあるでしょ。事実上の住民投票になりますよ。

邦丸: 仲井眞(弘多)さんを選ぶか、翁長(雄志)さんを選ぶか。

佐藤: 下地さんというオプションもありますけどね。いずれにしろ、そこで示されるのは何かというと、日本との距離関係――沖縄の自己決定権を認めるか、それともそういったものはないのか。言い換えれば、ここで沖縄は琉球藩ではないという廃藩置県を認めてしまうのか、それともまだ認めないのか。というのも、廃藩置県――沖縄の側から見れば琉球処分になるんですが、沖縄は未だにそれが宙ぶらりんなんですよ。そういう面倒臭いことになっているなという感じがするんですね。

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol045(2014年9月24日配信)より

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