【内閣府 その1】 市場の歪みを是正し、世界で戦える産業を創出する競争政策の実現を!
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経済学の祖、アダム・スミスが「国富論」で、神の見えざる手と表現した「自由な市場」は、シュンペーターもイノベーションの源泉として重視している。市場における自由な競争は経済成長の源泉だ。

このため、適正な市場競争を担保すべく、各国は競争法を整備している。先進国に加えて今世紀に入って途上国も続々と競争法の整備を進め、世界で競争法を導入済みの国・地域は100を超えた。EUにおける「競争法」、アメリカにおける「反トラスト法」、そして日本では「独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)」がそれだ。

しかし、グローバル化が進展し、ITの発展などによって市場構造が変化する中、欧米においては制度変更もおこなわれ、適切な競争政策が実施されている。現状では、欧米ではおこなわれている「競争政策」が、日本では単なる「独占禁止法政策」になってしまっている。

日本でも、独占禁止法政策から競争政策に切り替え、日本の競争政策を欧米水準以上に高める必要がある。ここでは、3つの視点で「行動」を提言していきたい。

1) 経済的弱者を守るための独占禁止法政策ではなく、世界で戦える産業を創出する競争政策の実現を!
2) 市場の歪みを是正・排除し、「官製市場」にも公正な競争がおこなわれる競争環境の強化を!
3) 自国産業保護の手法として独禁法を活用することを許さず、外国企業からの独占の弊害を除去しつつ、各国の競争政策の政策調整を主導せよ!

公正取引委員会は、その名のとおり、「公正な取引」を担保することを使命とする組織だ。そのためには、世界市場で捉え、市場の歪みを排除し、世界標準で公正な競争がおこなわれる競争政策が重要となる。

1. 経済的弱者を守るための独占禁止法政策ではなく、世界で戦える産業を創出する競争政策の実現を!

マイクロソフトやサムスンのように、高い市場占有率が国際競争力を生み出している現状を踏まえれば、国内の市場占有率の高さによって事前規制するような競争政策(独占禁止法政策政策)は、逆に企業の国際的な競争力を殺いでしまうといえよう。

古来、経済学では、市場が「独占」されると市場原理が働かなくなるため、企業数が多いほうが望ましいという考え方がとられてきた。その結果、市場占有率が高くなりすぎる合併を規制し、市場の集中を防止することで、市場支配力を持つ企業の出現を防ぐ規制が整備されてきた。

しかし、近年では、たとえば、パソコンOSの全世界の市場を独占してきたマイクロソフトや、政府主導で国内寡占を実現して世界のマーケットに躍進していった韓国のサムスンなど、独占や寡占によって成長を牽引している事例は数多ある。最近では、NY市場に上場し、楽天の10倍以上で、トヨタを超える時価総額となったアリババ等は、諸外国の競合を締め出して、国内で独占状態を創りだした最新の事例でもある。

企業数を増やすことよりも、むしろ合併や市場の独占・寡占によるコスト削減などで競争力を高めることで、消費者にもメリットを与えることが可能となることもある。つまり、独占は必ずしも悪ではないということになる。

実際、アメリカでも一昔前は、競争者の数を増やすことが競争を促進させるという考え方のもと、大企業を分割したり、中小企業を過剰に保護したりという政策がとられてきた。だが、1970年代以降、規制を緩和し合併を広く容認する立場へと移っていった。

これは、米国経済の競争力が鈍化するにつれ、経済効率を重視する「シカゴ学派」の影響力が増大したためだ。シカゴ学派では、新規参入が阻害されていなければ、独占企業といえども参入を想定した価格を設定せざるを得ず、実質的には競争状態と変わらない。

この結果、1992年米国合併ガイドライン(1997年改訂)では、「市場支配力」(Market Power)を形成・増幅する合併「のみ」を禁止する規制内容に至っている。

この、市場支配力を形成・強化する合併「のみ」を禁止する競争政策は、いまではEUや日本においても取り入れられているとされる。実際、近年の公正取引委員会の方向性はかなり変わってきていると感じられる点もある。しかし、日本の公正取引委員会は、恐々と変革を進めているにすぎず、日本ではいまだに、競争力強化を重視しない古い独占禁止法政策が根強く残ってしまっているように感じる。

一例を挙げよう。2012年、新日本製鐵と住友金属の合併計画について、公正取引委員会は独禁法に違反しないとして合併を認める判断を下した。近年、2006年のミタル(オランダ)によるアルセロール(ルクセンブルグ)の買収、2007年のタタ(インド)によるコーラス(イギリス)の買収等、世界的規模で鉄鋼会社間の統合が進んでいる中、日本企業の競争力の強化につながる合併が認められたことは評価すべきだが、そこには2つの問題があった。

新日鉄と住友金属の合併については、[1]市場の地理的範囲について、国境を越える市場が画定されるか、[2]合併による効率性が評価されるか、が争点であった。

まず、市場の地理的範囲について、産業界は市場のグローバル化を踏まえてその地理的範囲を判断すべきだとして、地理的範囲について「東アジア」市場とすべきとの主張がなされた。しかし、公取委は、価格が5~10%上がっても国内ユーザーが海外メーカーに切り替えることがないことを理由に地理的範囲を「日本全国」として、国境を越えた地理的範囲を画定しなかった。

また、合併による効率性についてだが、合併によってコスト削減が達成されれば、国際競争力を強化し国民経済にとって利益をもたらすはずであるが、公取委の判断では、この点についてはまったく考慮されなかった。

これが日本の独占禁止法政策の現状であると言える。

グローバル化する市場で、巨大化・多国籍化が進んだ欧米企業や国内寡占を競争力の源泉とする途上国企業と戦う日本企業だけが、日本の独占禁止法政策の足かせをはめられたのでは、まっとうな競争などできはしない。

日本でも一刻も早く、競争政策への脱皮が必要だ。そのために、日本の公正取引委員会にも、発想の転換を迫りたい。世界次元で市場を捉え、合併による効率性をより重視し、単に市場を占有する独占を禁止するような外形標準的な合併規制から脱却して欲しい。

競争そのものを育成する競争政策の方向性をより強化し、よりスピーディーに変革を進めるべきである。

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