山田肇×吉川尚宏×町田徹 【第5回】 「電波オークションを導入すれば、投資を回収しようというインセンティブが働く」
~日本の電波の有効活用を考える座談会~
[左から] 山田肇さん(東洋大学教授)、司会の町田徹さん(経済ジャーナリスト)、吉川尚弘さん(ATカーニーパートナー)

【第4回】はこちらをご覧ください。

3社体制では「協調的寡占」が起こる

町田: 吉川さんは前回、ソフトバンクが買収したスプリント・コーポレーションによるTモバイルの買収をアメリカ当局は簡単には許さないんじゃないかというお話をした。競争というのは3社か、4社かでは決定的に違うので、4社間の競争体制を維持するのが大切だと指摘して、見事にそれが予言になった。そういう方向性をアメリカ当局が打ち出し、ソフトバンクは買収を断念せざるを得なくなりました。

吉川: まず、アメリカ当局の動きは私の予想した通りでした。アメリカにはベライゾン・コミュニケーションズ、AT&T、ソフトバンクが買収したスプリント、T-モバイルという4社があります。ソフトバンクの主張は、「T-モバイルとスプリントはシェアが低いから2社合併して強い第三勢力を作ろう」ということだったわけですが、当局はそれを認めなかった。

日本の携帯もかつて4社グループだったのが結果的に3社グループになっているわけです。4社と3社では競争の度合いが違います。今のアメリカの状況は典型的なんですが、T-モバイルが一種の価格破壊者になって、非常に面白いサービスを展開して加入者を伸ばしています。こういう状況を見ていると、やっぱり3社よりも4社のほうがいいと当局が考えるのは当たり前なのかな、と。

面白いことに、T-モバイルを買収したいと言っている会社がもうひとつあるのですが、イリアッドというフランスの会社なんです。この会社が面白くて、フランスの第4のキャリアなんですね。フランスでは、オレンジ(フランステレコム)、SFR、ブイグ・テレコムという3社に加えてこのイリアッド・・・ブランド名がフリーという会社なんですが、この4社目の会社が2年くらい前から出てきています。

この会社はネット販売とか低価格路線を打ち出して、フランス国内で急激にシェアを伸ばしてきています。そうやってフランスでは従来3社体制だったのを4社体制にしたという経緯がある。その会社がさらにアメリカの第4のキャリアを買収するという名乗りを挙げている。こういう動きがありました。

だからアメリカ当局としては、T-モバイルをそのまま生かしておきたいというのもあるんですが、場合によってはイリアッドというフランスの会社がT-モバイルを買ってもいいと思ったんでしょう。そうすると価格競争が起きるだろうと想定したと思うんです。だから、当局は簡単には許さないだろうなと考えていたら、やっぱりそういう事態になった。

町田: 結局、3社と4社では、3社になった途端に・・・まあ、露骨にやるかどうかとは別にして、カルテル的な体制になりやすいということですね。

吉川: 総務省の言葉で言うなら「協調的寡占」が起こる、ということでしょう。別に談合しているとかそういうことではないんです。A社からすれば、他にB社とC社しかいなければ相手の動きが読めますよね。ここにさらにD社が加わると、何をやり出すかわからないし、さらにD社は失うものが何もないということであればありとあらゆる手段を行使してくる。そういう意味では4というのはある種のマジックナンバーで、3と4には大きな隔たりがあると思います。

町田: 自分のところの収益を傷めてまで大胆にお客さんをとりにいきたくない。競争相手が2社しかいなければ、その程度でも何とか通用しそうだと判断してしまうということですよね。

日本の場合、ソフトバンクによるイー・アクセスグループの買収を易々と見逃してしまったんだけれども、ここにきて周波数帯の与え方を含めて、グループで考えるとか、あるいは逆にNTTドコモに対する規制を緩めていくとか、そういう失敗に対する当局側の反省も出てきているようにも見えます。 そう考えるのはまだ気が早いですか。

吉川: 「反省」という言葉がいいかどうかは別として、当局はおそらく、あのときに判断ミスをした、あるいは当時の行政の制度の枠組みではブレーキをかけられなかった、ということに対して内心忸怩たるものがあると思います。私がおかしいと思ったのは、たとえ総務省がブレーキをかけられなくても、公正取引委員会が独禁法の旗の下になんでブレーキをかけられなかったのだろうかということです。

それに対する彼らの今の答えは、一つはSIMロック解除ですとか、MVNOを振興していこうというやり方ですよね。それから今回の周波数帯の付与の仕方については、もうイー・アクセスというのもソフトバンクグループですよ、同じ企業グループですから一つしか与えませんよ、と言っている。あの当時の不作為に対する当局の回答なのかな、と思います。

町田: これは新しいいろいろなサービスが出てくることをにらんでのことなんでしょうけれども、モバイルに関して言うと小さなエリアの中で過半数以上のシェアを持っているような状況だとある種のドミナント規制を課して厳しく、いろいろな提携なんかを制約してきた。それを新しいサービス中心に、たとえばITSの部門の提携だったらドコモにそういう規制が厳しくかかっているケースも緩めていくという動きも出ていますね。

吉川: 禁止行為規定の適用除外ですね。

町田: M&Aとか提携を規制するというよりは、競争に役立つかどうかをかなり真剣に見ていこうというムードもようやく出てきてくれているのかな、という感じです。

吉川: 総務省でかける規制というのは、いわゆるネットワークのエリアだけに限られているんです。ところが、普通の人が使っているGmailのようなメールサービス、FacebookのようなSNS等はグローバルなサービスです。OTT(Over The Top=最上位階層の略。動画や音声などのコンテンツを通信事業者のサービスによらずに提供すること)のレイヤーの競争で、総務省としてもほとんど口が挟めていない。これに対抗していくためには、規制でがんじがらめにやる必要はないんじゃないかという議論が背景にある。

町田: もっと言ってしまうと、たとえばGoogleなりFacebookなりが個人情報を通販とかを含めてグループ内でいろいろなビジネスに使い回したりできるようになったことに対して、下のレイヤーやネットワークのレイヤーでは規制が厳しすぎて個人情報一つでもなかなか使えない。いろいろな意味で競争環境を揃えてやろう、競争をしやすくしてやろうという考えがあるんでしょう。これから競争を促進していくことで、いろいろサービスが広がっていきやすい環境にしていこうということですよね。

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