北朝鮮拉致問題と背乗り(ハイノリ) 第2回
「サラミ戦術」と元北朝鮮工作員の分析

竹内明(TBS『Nスタ』キャスター)
朝の平壌市内。高層マンションやガラス張りのビルが立ち並ぶ
本格的スパイ小説「背乗り(ハイノリ) 警視庁公安部外事二課」を著したばかりの、竹内明氏が8月30日、31日に北朝鮮・平壌でアントニオ猪木参院議員らが開催したプロレス興行を取材した。日本の公安・情報当局は北朝鮮側の狙い、拉致交渉の展開をどう分析しているのか。国際諜報戦の裏側を長年取材している竹内氏が3日連続でレポートする。今回はその第2回目である。

不穏な空気

「外務省がオモテとウラを両方の交渉をやっているのは危険だ」

今年、拉致問題をめぐる日朝接触が本格化したころ、ある政府関係者はこう言った。

「オモテ」とは日本外務省の伊原アジア大洋州局長と北朝鮮外務省の宋日昊(ソン・イルホ)大使との公式交渉。テレビ報道でも映像が流れているからお馴染みだろう。「ウラ」というのは、同じく伊原局長と「国家安全保衛部」の課長級とされる「キム・ ジョンチョル」と名乗る人物との非公式接触のことだ。いまこの二つのルートを基本に拉致交渉は進められている。

通常、国家間の交渉事では、オモテは外交当局同士、ウラは情報機関同士がやりとりして、互いに国益を追及するのが、万国共通の常識だ。北朝鮮の国家安全保衛部は、日本では「秘密警察」と報じられるが、実際は金王朝の体制を守るための情報機関、つまりウラだ。外務省は外交一元化の名のもとにウラの折衝まで担っている。

「外務省は欧米や韓国、中国、モンゴルの情報機関との密接な関係がなく、北朝鮮国内に浸透した協力者もいない。情報機関の手口も知らないし、拉致被害者の安否情報の断片を自力でとれない。北朝鮮側に付け入る隙をあたえるだけだ」(日本の情報当局者)

この懸念は、先日の「再調査結果の1回目報告の延期」で、ますます強まっている。その直前から、不穏な空気は流れていた。

著者=竹内明
背乗り 警視庁公安部外事二課
(講談社、税別1500円)
警察組織に紛れ込んだ「潜入者(モグラ)」の罠にかかり、公安を追われた元エース。組織に裏切られ、切り捨てられた男は、それでも飢えた猟犬のように捜査に執念を燃やす。苛烈なスパイハンターたちの戦い。仲間が仲間を疑い、尾行・監禁し、罠にさえ陥れる、知られざる日本の闇、公安捜査の内実に迫る。

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