医療・健康・食

医者もなかなか分からない心筋梗塞---年間2万人が訪れるERを率いる医師が教える 医師でも間違える病気・ケガ・薬の新常識(1)

林 寛之

厄介なことに痛みを訴えない心筋梗塞の1/3にしか糖尿病がないので、むしろ糖尿病を持っていない人であっても、急性に全身倦怠感を訴える場合は、念のために心電図をとっておく必要があります。慢性的に疲れがたまっている場合は話が別なので、大騒ぎする必要はありません。

85歳以上の高齢者の場合はむしろ胸の痛みではなく「息切れ」を訴えることが最も多いのです。

困ったことに自己診断で「風邪ひいた」と言われて来院される方がいらっしゃいます。心筋梗塞にでもなれば微熱になることもあり、自分で「わしゃ、平熱は35℃じゃ。だから37℃もあったら風邪ひいてちょっと歩いてもしんどい」と言います。
もちろん、これは心不全による息切れですが、医者に「風邪」という自己診断の先入観を植え付けてしまうと、誤診につながってしまうのです。患者の声に耳を傾けたせいで見逃してしまうということがあるのです。

多くの心筋梗塞は医者もすぐにはわからない

心筋梗塞という病気は実は医者も何度も痛い目に遭いながら、医療の限界と日々戦っている疾患です。

一番の決め手になる心電図ですが、「心電図さえとれば心筋梗塞くらいわかるだろう?」というとそうでもありません。

最初の心電図で異常が出るのは、心筋梗塞全体の13~69%しかありません。最終的に心筋梗塞と診断するには時間をかけて心電図変化を追いかけないと、または昔の心電図と比較しないとなかなかわからないことがあるのです。ですから、初めての医療機関にかかるより、かかりつけの医者に行って昔の心電図と比較できる方が得なのです。

高血圧や脂質代謝異常、糖尿病でかかりつけ医がいれば、元気な時の心電図をとっておく方が得策です。救急で時間経過を追いかけるのであれば、8~12時間まで追いかけてもわからないことがあります。

心筋梗塞で心筋が壊れた時にでてくる心筋酵素を調べる血液検査も一発診断はできません。心筋梗塞であっても半数しか血液検査はひっかかってこないからです。

特に、症状が出て最初の1時間以内に医療機関を受診した場合、血液検査のひっかかる確率はたったの10~45%です。発症から8時間以上経過すると初めてこの検査は90%以上が引っかかってくれます。つまり血液検査が正常でもそう簡単に患者さんを家に帰すわけにはいかないのです。

3~4時間後にもう一度採血と心電図を再度検査すると心筋梗塞の約96%を見つけることができ、8~12時間後に採血と心電図を再検すると約98%の心筋梗塞を見つけることができると言います。この残りの2%は医療の限界への挑戦です。どんな優秀な医者でも難しいものです。

うるさくて眠れない救急室にずっとひきとめられて、患者さんにとっては早く帰宅したい気持ちがあるでしょうが、医者も時間をかけて調べてみないとなかなかすっきりしないのです。

「どうせすぐに帰宅できないのなら、早く入院させてほしい」という患者さんがいらっしゃいますが、医者の目の届かない病室に入ってしまえば安心と言うわけではなく、急変した時に対応できる場所を確保できない場合は、むしろ入院より、すぐに当直医がかけつけられる外来で様子を見る方が安全なものなのです。

心エコーや心臓CTというハイカラな検査もありますが、それも100%見つけられる検査ではなく、心エコーは医者の腕に左右されますし、心臓CTは結構被ばくするので本当に必要な時に受ける検査であり、動脈硬化が強ければ役に立たない検査なのです。