樹林伸×佐渡島庸平(後編)「他の作品にはない個性、サムシングエルスがヒットの火種」
先輩編集者に学ぶ!
7月某日、池袋コミュニティカレッジにて「この時代、編集とは何か」をテーマに対談イベントが開催された。株式会社コルク代表・佐渡島庸平氏が、原作者、マンガボックス編集長・樹林伸氏にマンガの原作者、編集者について聞く。後編は、ヒットを生み出すマンガ編集者の資質について---。(文・草野真一/写真・福田俊介)

※前編はこちらからご覧ください。

重複やムダな間を切れるかどうかが編集者の力量

佐渡島 新入社員には成功体験がありませんよね。「こうすれば人気が出る」というセオリーもわからない。ネーム(マンガの青写真、下絵)を直す基準は、どうやって打ち立てていったのですか。

樹林 まず、自分が読みやすいようにする。あと、すごく勉強になったと思っているのは、話を詰め込んでいくテクニックをマスターしたこと。こちらが実現したいストーリーは、そのままではどうやったって収まらないんですよ。でも、収めなければはじまらない。そういう場合、ムダなところをとっていくしかないんですよね。「ここはいらない」「これはカット」でひたすら詰めていくしかないんですよ。

佐渡島 でも、そうすると情報量は多くなっていきますよね。

樹林  必要な情報に絞ればいい。よく、『マンガの描き方』みたいな入門書には、「場面転換がポイントだ」って書いてあるんですよね。学校の大きな絵が入って、それによって場面が学校に変わったんだな、とわかる。でも、僕はあんまり重要じゃないと思ってるんです。読者が知りたいことっていうのは、会話がどこで話されているかじゃありません。「誰と話しているのか」「何を話しているのか」ということなんです。だとすれば、大きく描くべきは学校じゃなくて、キャラクターのアップですよね。

僕は編集者として、短くするときにはかならずマンガ家に説明します。たとえば学校という「場所」より話している内容が重要なときには、そのことを伝えます。たいがいの人はわかってくれます。重複とかムダな間とかって、ベテラン作家でも生まれてしまうものなんですよ。それを切れるかどうかが、編集者の力量です。

佐渡島 どうして重複やムダな間が生まれてしまうと思いますか?

樹林 安心感じゃないでしょうか。

情報量の「読みやすいバランス」を意識する

佐渡島 情報量が増えてよくないのは、途中参加がしづらくなるということですね。最初から読んでいる人は情報量が増えて話が難しくなってもついてきてくれるだろうし、むしろ喜んでくれると思うんですが、今日はじめて作品に接する人は、情報量が多いと何をしているかわからない。

樹林 そうだね。そこは難しいところだと思います。ただ、ひとつ言えるのは、話が難しいなら、早く進めた方がいいんですよ。

佐渡島 難しいからこそ、ゆっくり時間をかけて伝える必要があるんじゃないですか?

樹林 たとえばね、難しい大学の先生の話を、時間をかけてやるとするでしょう。そんなことしても結局わからない時はわからないし、かえって嫌いになっちゃうじゃないですか。まして、こちらは大学の講義じゃなくてマンガを作っているわけだから、おもしろくない話に時間をかけちゃダメなんですよ。おもしろくない話をするぐらいなら削った方がいい。あるいは、ある程度かたまりとして、一気に進めた方が、理解してもらえないまでも、とりあえず流してもらえるんです。