Photo by iStock

世にも珍しい「冬眠するサメ」ウバザメの秘密を聞きに、美ら海へ

沼口麻子「サメに恋して」第9回

巨大ザメ3種の謎を解くシンポジウム

沖縄美ら海水族館を訪れたのは、昨年(2013年)の、夏がはじまる少しだけ前だった。

私はこの水族館の4階エントランスが大好きだ。駐車場をおりて、大きなジンベエザメのモニュメントの前を進むと、3階にある入館受付へ行くための、とても開放的な下りエスカレーターがある。

真っ正面に広がる大海原を一望できる、下りエスカレーターの手前の場所を4階エントランスというらしい。景色に見惚れて立ち止まると、想像したよりもちょっと強い、むふぁっとした風が吹いてきて、私はあわてて帽子を抑えた。

2013年6月29日に、美ら海水族館で大変興味深いシンポジウムが開催された。4階エントランスの横にあるイベント会場の看板に書かれたタイトルは、「濾過食板鰓類---その謎を解く(The filter feeding elasmobranchs: Unraveling their many mysteries )」。

「濾過食板鰓類」---これは「ろかしょくばんさいるい」と読み、プランクトンを食べるサメの仲間を指す専門用語だ。

サメというと、鋭い歯を持ち、大型ほ乳類を噛みちぎって食べるイメージがあるかもしれないが、そうでないサメもたくさんいる。世界中に500種類以上いるサメの中で、プランクトンを食べているサメは3種類。いずれも大型種にもかかわらず、歯は米粒大ほどしかない。

その代わり、エラにプランクトンを濾しとる特殊機能がある。このシンポジウムはその対象種であるジンベエザメ、メガマウスザメ、そしてウバザメの3種について熱い議論を交わす場であったのだ。

3種ともいずれ劣らぬ巨大ザメだ。大きい順に言えば、世界最大の魚類ジンベエザメが12m、次いで世界2位の大きさを誇るウバザメが10m、メガマウスザメはおよそ6mに達する。

前回の記事では、世界を揺るがしたニューネッシー騒動の犯人は「ウバザメ」だったという話を書いたが、今回はその犯人に注目してみたいと思う。ウバザメとはどんなサメなのか。

世界にひとり!? ウバザメ研究者によるプレゼン

「ウバザメの研究者は世界にひとりしかいません。」

こうおっしゃられたのは、このシンポジウムのプレゼンターの一人、Gregory B. Skomal先生(MA Marine Fisheries ※以下、グレゴリー先生と表記する)。シンポジウムの最終演題「西大西洋におけるウバザメの短期的および中長期的回遊の特性」という研究報告が終わると、会場はたいへん興味深い質問で賑わった。

ウバザメのプレゼンを披露したグレゴリー先生

「沖縄のある島でウバザメがジャンプしているのを目撃したと聞いたが、水面の上にジャンプすることがあるのか」

それに対し、グレゴリー先生は「ブリーチング(水面での大ジャンプのこと。通常は鯨類に対して使用する)は多い時は数分おきと頻繁に目撃しているが、理由は不明だ」と答えた。10m近くもある巨大生物が水面の上にジャンプするにはかなり高速に泳がなくてはならないと思うのだが、いつもゆっくり泳いでおり、機敏な動きをするイメージがまったくない。

クジラに負けじとブリーチングに勤しむとでもいうのか、何かのコミュニケーションのための行動か、どうやって飛び上がるのか、いったい全体どういうことなのか、会場は腑に落ちない雰囲気に包まれた。

次の質問は「冬にウバザメは目撃されなくなるが、その理由は何か」というものだった。ウバザメは冬眠をするという噂が昔からある。それについては「ウバザメがプランクトン食のサメだとすると、その際の摂餌生態の説明は難しい」という。

ウバザメは冬眠をする世にも珍しいサメなのか、その際は餌を一切食べていないのか、それともある時期になると人知れず放浪したくなる寅さん的な生き方で、たまたま私たち人間が目撃していないだけなのか。考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ。

新生・ブルーバックス誕生!