「GW分散化」7つの疑問
ワーキングチーム座長
辻元清美センセイに聞きたいッ!

「今、チョー忙しいの。すぐに大臣のとこに行かないと」

3月8日、開始から30分ほどで、「休日分散化」ワーキングチームの会議場を後にする辻元副大臣を直撃 〔PHOTO〕郡山総一郎

 と言いつつ、合同庁舎内のエレベータに乗り込むのは辻元清美・国交副大臣だ。

 というより、最近にわかに脚光を浴びだした「休日分散化」を検討する休暇分散化ワーキングチーム(以下、WT)の座長といったほうがいいかもしれない。

 3月8日、そのWTによる教育界と労働界へのヒアリングが行われた。

 が、出席者からは「子供の将来にどういうメリットがあるのか」「企業と金融機関の取引は大丈夫なのか」など「休日分散化」への懸念や疑問が続出。本誌の直撃に、辻元副大臣は「厳しい意見を聞くために会を開いてますから」と余裕の笑みを見せたが、前途多難な雲行きだ。

 そもそも、休日を地域ごとに分散させるというアイデアは、'04年、自民党政権でも提言されていた。が、当時は話題にもならないまま、先の衆院選で自民党は下野。「休日分散化」案はお蔵入りになったかと思われた。

 ところが、政権交代後、この案の提唱者である「星野リゾート」代表取締役の星野佳路氏が国土交通省所管の成長戦略会議のメンバーに選ばれたことで、「休暇の分散化」案は復権。昨年末には鳩山内閣が閣議決定した新成長戦略の主な施策の一つに決定したのである。

 WTが提示している「分散化」案は全国を5つの「ブロック」に分割し、5連休のゴールデンウイークと秋の大型連休(5連休)をブロックごとに分けてとることで、観光地の雇用創出や混雑緩和を図るというものだ。早ければ'12年度からの実施を目指すというが、いま一つ、ピンとこないのが正直なところ。

 「休日分散化」は国民にとって本当にメリットがあるのか。チョー忙しい辻元副大臣に代わって、主に「GW分散化」について「7つの疑問」を識者と考えてみた。

「GW分散化」とは? (地域ブロック別に5週に分散)

 WTが提示している休日分散化案は、「ゴールデンウィークの地域別分散化」と「秋の大型連休創設」の二つから成る。

 GW分散化とは、憲法記念日(5月3日)、みどりの日(5月4日)、こどもの日(5月5日)をひとまとまりにして地域ブロック別に割り振るというもの。割り振り方法として、月~水曜日に割り振る方法と、月~水もしくは水~金に割り振る方法が提示されている。いずれにしても、現行の祝日は記念日としては残るが、休日ではなくなることになる。

 一方、秋の大型連休創設は、現在、ハッピーマンデーとして移動の対象となっている休日のうち、海の日(7月20日)、敬老の日(9月15日)、体育の日(10月10日)をやはり"記念日化"し、10月の各週にひとまとまりの連休として地域別に割り振るというものだ。

図中の「南関東」は、千葉県・埼玉県・東京都・神奈川県を示す 観光庁休暇分散化ワーキングチーム資料「休暇分散化パターンについて」を参考に編集部で作成

 上で示した地域ブロックは、WTが提示しているもので、「全国を4~6に分割する案も検討中で、人口、労働力人口などが同規模になるように割り振る予定」(観光庁)だという

 仮に、今年の5月のGWに、月~水曜日に割り振る方法で分散化された場合、各ブロックの休みは右のカレンダーのようになる。東京都に住んでいる人は、土日も含め5月29日~6月2日までの5日間がGWになる。

 上で示した地域ブロックは、WTが提示しているもので、「全国を4~6に分割する案も検討中で、人口、労働力人口などが同規模になるように割り振る予定」(観光庁)だという。

Q1 
南関東が一斉に休めば、やっぱり道路は渋滞、新幹線も大混雑では?

 観光庁がまとめた「平成22年休暇の取得・分散化に関する国民意識調査」によると、GW分散化について、「賛成」もしくは「どちらかといえば賛成」と答えた人は合わせて49.7%。その理由として最も多かったのは、「道路や交通機関の混雑緩和に期待するから」(約87%)だ。

 実際、渋滞だけを見てもGWの混雑ぶりは突出している。日本バス協会によれば、'09年のGW(4月29日~5月6日)における高速バスの運行の遅延時間は全国平均で約4時間34分。同年のお盆期間(8月6日~18日)の約3時間23分と比べても1時間以上も遅い。

 WTは分散化の効果の一つとして「交通渋滞や混雑の緩和による移動時間の短縮化」を挙げている。が、上で示した地域分割案の場合、千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県の4県は南関東ブロックとして同時に連休に突入することになる。

 これで、交通機関や道路の混雑は本当に緩和できるのだろうか。観光ビジネス研究が専門の横浜商科大学商学部・羽田耕治教授は次のように話す。

「人口密集地帯である首都圏、中京圏、関西圏については、例えば、県ごとに休暇が分散するような処置を取らないと渋滞が緩和されない恐れがあります。つまり、旅行に出掛けた先での渋滞は緩和されるかもしれないが、行き帰りの渋滞は解消されないのではないか、ということです。新幹線など鉄道でも同じでしょう」

 分割方法に見直しの余地があると指摘する一方で、「全般的に見れば混雑は緩和される」と羽田教授は言う。

「旅行需要が分散することは間違いないので、全国的に見れば渋滞はこれまでより少なくなると思います。旅先での移動もスムーズになり、観光地では駐車場に入れないことがあるわけですが、これも改善されるのではないでしょうか」

 実際、学校休業の分散化(学校の長期休暇を地域ごとにずらす政策)を行ったドイツで、アウトバーンの渋滞が減ったという報告もある。交通集中に関しては、それなりの改善効果が望めそうだ。

Q2
いまのGW料金よりホントに安くなるのか? 
旅行業界丸儲けではないのか?

 前述の意識調査で、分散化に賛成する理由として2番目に多かったのが、「チケットやツアーの予約が取りやすくなることに期待するから」(約60%)だ。首都圏に住む大人二人が沖縄への2泊3日ツアーに参加する場合、GW期間は最高値で13万8800円。

 7月の3連休やお盆休みなどと同じく年間最高値となっている(グラフ参照)。年間最安値と比較すると、実に3倍以上も高額なのだ。

 観光庁は、分散化のメリットとして、「旅行料金の低廉化」も挙げている。しかし、いざ分散化してみたら高額料金はそのまま据え置き、GWが5回に増えた分、旅行業界が丸儲けとならないのか。

「GW分散化が実現すれば、これまでなら予約ですぐ埋まってしまう人気スポットへの客足も分散化される。イタリアやフランスなどヨーロッパでも人気のスポットや、アメリカ西海岸やハワイなどの定番スポットも従来より行きやすくなり、ホテルも安くなると見込んでいます」(H.I.S.経営企画室)

 前出の「星野リゾート」星野氏も「ホテルの予約が取りやすくなるだけでなく、料金もリーズナブルになる」と話す。

 一方、人気の宿は値段が下がらないと言うのは、レジャー業界の市場調査を行う「レジャーマーケティングセンター」の戸塚章顧問だ。

「旅館、リゾートホテルの7割は負債があると言われており、今回の分散化は業界の救済的な意味合いもあります。こういう宿泊施設は値段を多少下げてもお客さんをたくさん入れようとするでしょう。一方、稼働率9割以上で予約はキャンセル待ちという人気の宿泊施設もある。こういう勝ち組はいつも満室みたいな状況で、分散化とは無縁です。当然、宿泊料金は現行のGW料金のままでしょう」

 ブロック内にある人気観光地(南関東ならば、例えば箱根)の宿も、そのブロックの人が一斉に休むのだから、どこまで料金が下がるのか大いに疑問だ。

Q3
東京本社が稼働していて大阪支社が休めるのか?

 本社が東京、工場は北関東の群馬―というように分散化のブロックを越える企業は多くある。会社の事業形態にもよるが、例えば、東京の本社が稼働しているのに、大阪支社や関西工場の社員が一斉に休むのは無理というケースも多いだろう。WTのヒアリングでも、労働界から「本社と支社で仕事の調整は付くのか」という懸念があがった。

 他にも、全国中小企業団体中央会が行った聞き取りでは、「全国的に取引をしているので、休日が分散化すると取引が止まり、在庫負担が増えてしまう」(卸売業)、「土木関係の工事で人員が必要な場合、ブロックを越えて業者に発注することができなくなる」(建設業)、「1年前からカレンダーの企画・営業を始めるため、すぐには対応できない」(印刷業)など業界ごとの様々な懸念材料が報告されている。

 また、青果物や水産物の中央卸売市場では、全国で統一して市を開く日と休む日を決めている。各産地はそれに合わせて計画的に出荷しているが、ブロック別に分散されると出荷調整が難しくなるなど、各業界に難問が生まれそうだ。

Q4
単身赴任のお父さんは子どもと一緒に休めない?

「分散化は『お父さんの支援策』にもなっている。GWともなれば、世のお父さんは家族サービスに振り回され、交通渋滞やテーマパークの大行列で心身ともにグッタリしてしまう。でも、GW分散化が実現すればお父さんたちの負担は大いに軽減されるんです」

 こう話すのは衆議院・国土交通委員会の筆頭理事である民主党・小泉俊明議員だ。確かに、子どもと一緒に休めるお父さんにとっては、混雑緩和や旅行料金低下が見込める分散化案は、期待できる支援策と言える。しかし、ブロックを越えて単身赴任中のお父さんにとっては、むしろ逆で、悩ましい事態となりそうだ。

「自分のブロックの連休をきっちり休んだうえで、息子の休みに合わせて有休を取って家族旅行に行くというのは、制度的にはできますけど、現実には無理でしょうね。営業職ですので、毎月の売上目標が設定されていますし、平日を計6日も休んだら到底達成できません。せいぜい土日に帰って顔を見てくるくらいでしょう」
(医療機器メーカー営業職・28歳)

 3日も職場を空けるのは無理と多くのサラリーマンが実感しているだろう。単身赴任中のお父さんは、GWの家族旅行を諦めるしかないのか。休暇分散化法案の動向に詳しいジャーナリストの小谷洋之氏は、「そもそも有給休暇が取りやすい社会であれば、分散化の必要はない」と話し、こう指摘する。

「本当の問題は、国民が有給休暇を取りづらいことに集約されます。休暇が取りやすければ、そもそも通年的に休暇が分散され、集客ピーク問題なども自然に解消されるからです。つまり必要なのは、GWの分散化ではなく、任意の休暇を取りやすくするような構造改革なんです」

Q5
「こどもの日」が休みではなくなる。
古来伝統の祝日がそれでいいのか?

3月8日、「休暇分散化ワーキングチーム」が教育界、労働界からヒアリングを行った 〔PHOTO〕郡山総一郎

「こどもの日が休日ではなくなる。そうなれば、たとえ祝日として残っても、その意義やこどもの日としての伝統や文化は薄れてしまう。多少の経済効果は出るかもしれませんが、祝日のありがたみが失われてしまうことのほうが、ずっと深刻な問題だと思いますよ」

 こう話すのは経済評論家の荻原博子氏だ。国民の祝日を定めた「国民の祝日に関する法律」の第1条では、「国民こぞつて祝い、感謝し、又は記念する日を定め、これを『国民の祝日』と名づける」とされている。荻原氏の批判は、この立法趣旨に則った意見でもある。

 祝日にちなんだイベントをどうするか、という問題もある。毎年、こどもの日にイベントを行っている「江戸東京たてもの園」の木村俊弘園長が言う。

「こどもの日には出店を出し、チャンバラ大会などのイベントを毎年企画しています。もし休暇分散化となり、こどもの日が休日でなくなってしまったら、こちらとしてはイベントの名称や日付を変えて柔軟に対応していくしかありません」

 GWの祝日に合わせてイベントを組んでいる観光施設や地域は多い。祝日=平日となれば、客の激減は必至。存続を危ぶまれるイベントも出てくるだろう。

Q6
政府が謳う「地方の雇用増加」。
そんなに上手くいくのか?

「休日の分散化によって、まずレジャーと、その関連企業が潤うでしょう。さらに長いスパンで見れば、その経済効果は製造業にも必ず現れるはずです」

 前出の星野氏は、「休日分散化によって財政出動することなく内需を拡大できる」と主張する。

「レジャー産業が活性化すれば、各地の土産物、工芸品などの売り上げが伸びるのは当然です。それだけではなく、自動車での旅行機会が増加し、走行距離も延びるのでガソリンの消費が増えます。自動車自体の需要もプラスになるでしょう。また、(秋にも5連休ができて)旅行機会が増えれば、デジタルカメラやビデオカメラのニーズも増す。各方面での内需拡大が期待できるのです」

 前出の羽田教授は、観光産業特有の問題がある程度解決され、地方の雇用は増加するという。

「観光地は労働力をパート、バイトに頼っています。連休などと平日の人出の差が大きすぎて、ちゃんと人を雇えないからです。しかし、分散化によってON、OFFの差が平準化すれば、正規雇用は確実に増えていきます。安定的な雇用を約束し、質の高い従業員を雇うことができるようになるからです」

 だが、「5連休が計10回できたとしても50日。通年の雇用には結びつかないのではないか」(ホテル業界関係者)と疑問を投げかける声もある。

Q7
分散化は本当に実現するのか?

 休暇分散化を実現するためには、現行祝日法の改正か新法の制定が必要だ。つまり、いかにWTが案を固めても、国会で可決されなければ、単に絵に描いたモチになってしまう。政府側はどの程度まで実現の青写真を描いているのか?

休暇分散化への支持を明言した民主党の小泉議員 〔PHOTO〕小谷洋之

「分散化実施の『時期』については3月中に結論を出したい」

 WTのメンバーである藤本祐司国土交通大臣政務官はこう話す。藤本氏によれば、現行の祝日のどれを連休に充て、どれを残すかを検討のうえ、近日中に決定するという。前出の小泉俊明議員もこう語る。

「増税や大きな財源を確保する必要がない、財源に頼らない経済対策になっている点が非常に評価できます。法案として提出されたら、もちろん、与党として支えるでしょう」

 法案としてまとまれば、休暇分散は実現する可能性が高い。推進派は、そのメリットばかりを喧伝するが、ここまで見てきたように、多くの問題点と疑問も確かに存在する。今後、WTで行われていく議論の行方に注目したい。

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