「田園回帰」が始まった
子育て世代も都市から田舎に移住
「地方創生」へのうねりになるか[田園回帰]

若い世代の「田園回帰」が始まってきた。「奥出雲たたら製鉄及び棚田の文化的景観」=島根県文化財課提供

東京一極集中に象徴される大都市部への人口流入が地方を衰退させ2040年には半数近い自治体が「消滅」の危機を迎える――。民間有識者団体「日本創成会議・人口減少問題検討分科会」(座長・増田寛也元総務相)のリポートの衝撃は大きく、安倍晋三政権は「地方創生」を最重要課題に掲げた。これまでも少子化や移住促進にあの手この手を繰り出してきた自治体にはあきらめ感や疲労感も漂っているというが、一方で田舎暮らしを志向する人は若い子育て世代も含めて着実に増えている。この「田園回帰」の動きは少しずつ広がり、東日本大震災の経験がその傾向に拍車をかけているようだ。小さな動きが時代のうねりになれるか。「日本再生」への大きなカギになるかもしれない。

昨年開かれた「ふるさと回帰フェア」=東京都新宿区の早稲田大学で13年9月8日(ふるさと回帰支援センター提供)

東京・有楽町の交通会館6階にNPO法人ふるさと回帰支援センター(見城美枝子理事長)が入居している。都市の生活を切り上げて田舎暮らしを希望する人が増えるという時代の要請を受けて、02年11月、消費者団体や労働組合、農林漁業団体、経営団体、民間有志らによって設立された。移住の相談業務を始めたのは05年。情報誌「100万人のふるさと」の発行、「ふるさと回帰フェア」の開催など、移住支援のキーステーションになっている。09年には大阪事務所も開設した。

都心の一等地で約200平方メートルのオフィスに移ってきたのは12年1月。それでも手狭なくらいに、移住を求める相談者が途絶えることはない。正職員の相談員3人のほか、青森、福島、山梨、岡山の4県は専属職員が常駐し、全国の自治体の移住支援情報を網羅している。自治体主催のセミナーや相談会が年間百数十件開かれている。

同センターは本格的に相談業務を始める前の04年に首都圏、近畿圏、名古屋圏の連合組合員ら約5万人を対象に行った調査で、「ふるさと暮らしをしたい」という人が回答者の40%もいて、希望や条件が合えば田舎に移住したいと思っている都市生活者が相当数に上っていることが分かった。

にぎわう岡山市主催の移住相談会=東京都千代田区のふるさと回帰支援センターで8月9日

13年度の来訪・問い合わせなどの相談件数(東京)は1万827件で、前年度より70%増えている。5年前の08年(2901件)に比べると3・7倍にもなっており、明らかな増加傾向が見える。今年度に入ると例年は比較的少ない春先から多くの人が訪れており、同センターはさらに2割増の1万3000件ほどになると予想している。

「安心・安全」な土地を求めて

東京の同センターを訪れた人のアンケートで見る移住希望地ランキングは、13年は1位が長野県、2位が山梨県となっている。両県とも比較的、首都圏に近く登山やハイキングなどで訪れた人が多く、以前から中高年を中心に人気があるそうだ。北海道や沖縄県は〝別格〟で、わざわざ相談に訪れることもなく移住や長期滞在のプランを立てる人が多いという。

このところ人気が急上昇しているのが岡山県で11年の15位から12年は2位に躍進。13年は3位になったものの、自然災害が少ない県として移住希望者の関心を引いている。岡山県主催の移住相談会は100人近く集まることが多いという。

8月9日には岡山市が初めて単独で移住相談会を開いた。同市は今年4月、地元の移住者支援団体や宅建協会、ハローワークなど官民による協議会を立ち上げ、住まいから仕事、子育て、医療福祉などワンストップで対応する体制を作った。この日も参加団体が各ブースを設け、首都圏の計69組、109人が相談に訪れた。30歳代から40歳代の子育て世代が多く見かけられた。

さいたま市在住の団体職員の男性(36)は妻(40)と4歳、7カ月の2男児の家族で訪れた。群馬県生まれの男性は西日本には縁がなかったが「災害が少なく、原発の立地地点から最も遠いということで岡山を選んだ」といい、妻は「土に触れられる田舎で子どもたちを育てたい」と話していた。東京都文京区の主婦(44)も福島原発事故をきっかけに東京での生活に不安が募り「できるだけ早く岡山に移住したい」と希望する。しかし、まだIT企業に勤める夫(39)の同意を得ていない。当面は小学3年の長女と一緒に転居し「夫の説得を続ける」という。

新宿区の会社員の男性(59)は定年後の第二の人生として「夫婦で災害が少ない土地」への移住を考えているという。IT企業でシステムエンジニアをしていた埼玉県和光市の女性(48)も「都会での生活はもういいかなと思っている。移るなら安全なところがいいと思って来た」と話していた。

8月19日に開かれた長野県小諸市の「もろもろ相談会」は平日昼にも関わらず14組が参加した。市幹部や新規就農の支援をしている長野県農業大学校教授の説明や移住体験者の話の後、生活面や気候など具体的な質疑応答があった。

今年4月に移住したばかりの千野典子さん(33)は、新天地での生活の様子を映像を交えて紹介した。千野さんは夫(33)と8歳、6歳、3歳、1歳の子ども4人の6人家族。大手百貨店に勤務し、結婚してから10年間、東京都江戸川区に住んでいた。

母親が小諸出身で子どものころから愛着のある土地だった。「いずれ定年後にでも移り住みたいな」と思っていたが「3年前の大震災で考えが変わった」。夫の転職先が決まったことで移住に踏み切ったという。千野さんは総務省が財政支援している3年任期の地域おこし協力隊員として市役所で働いている。「自然が美しく、保育園の待機児童はゼロ。子どもをのびのびと育てられます」と小諸の魅力をアピールしていた。

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