「上野東京ライン」が来春開業
混雑緩和に期待 東京直結へ自治体から熱い視線[東北縦貫線]

訓練運転中の東北縦貫線(JR東日本提供)

来春に営業運転が始まるJR上野駅と東京駅を結ぶわずか3・8キロの新線に、首都圏の自治体の注目が集まっている。JR東北縦貫線で愛称は「上野東京ライン」、7月下旬には試運転も始まった。東北縦貫線が開通すると、上野駅が終点だった常磐線や東北(宇都宮)線、高崎線の3線が東海道線に乗り入れられるようになり、上野―東京間の通勤時の混雑緩和につながるほか、沿線の自治体からの利便性が格段に高まるとみられている。

東北縦貫線は2008年5月の着工で総工費は約400億円。秋葉原―神田間は、既設の新幹線高架橋の上に新線を乗せるもので、終電から始発までの短時間に工事が続けられた。最も高い地点は地上から約20メートルという。

00年に発表された運輸政策審議会(現交通政策審議会)の答申で15年までに整備するべき路線として位置づけられた。この区間には現在山手線・京浜東北線が走っているが、その混雑率は着工前の06年は218%と国内トップとなっていた。宇都宮線と高崎線は最大15両編成で輸送力が大きく、朝夕のラッシュ時間帯には1列車から約3000人が一斉に流れ出て、山手線や京浜東北線に乗り換えるため、上野―東京の大混雑を引き起こす要因にもなっていた。

その後、「湘南新宿ライン」の新設や「つくばエクスプレス線」の開通などの影響もあって、09年には最混雑路線の座を総武緩行線(錦糸町―両国間)に譲ったものの、現在も混雑率は依然として200%近く対策が急務となっていた。

東北縦貫線が開通すると、東京止まりの東海道線と上野止まりの宇都宮、高崎、常磐の各線の直通運転が可能になり、水戸―東京間は特急で10分程度の時間短縮ができるという。また山手線と京浜東北線への乗り換えが不要になるため混雑率は180%以下へ緩和されるとみられている。

新線開通に期待を寄せるのは、県南地区の振興に力を入れる茨城県だ。橋本昌茨城県知事や常磐線沿線自治体の首長らは今年1月、都内のJR東日本本社を訪れ、常磐線の乗り入れ本数が1本でも多くなるよう求める要望書を提出した。要望書では「宇都宮線、高崎線は、湘南新宿ラインなどで東京・横浜方面への乗り入れが実現しているが、常磐線は上野駅止まりのため、利用者も減少傾向にある」と指摘。橋本知事は「東京駅乗り入れにより、県南地域は通勤圏に入り、利用客がさらに増える」と訴えた。これに対してJR東日本の幹部は「全列車の乗り入れは物理的に困難なため、3路線の最適な組み合わせを考えている」と答えた。

東京乗り入れ求め決起集会
常磐線沿線の茨城県南部

また、今年4月には、茨城県土浦市の土浦商工会議所青年部など各市商工会青年部などで県南13市町の商工団体などでつくる「常磐線東京駅・横浜駅乗り入れ推進協議会決起集会」が同市で開かれた。集会には同市の中川清市長や石岡市の今泉文彦市長ら沿線自治体の首長ら約100人が出席し、JR東日本に対し強く働きかける決議をした。

焦点となっている乗り入れ本数について、JR東日本は「利用客の利便性を考慮して決定する」としているだけに、乗車人数が減少している常磐線の劣勢が予想されることから、同県の関係者は危機感を強めている。常磐線の乗降客数をみると、取手―勝田間の1日平均の通過人数は、12年度に02年度よりも7659人少ない5万9078人まで落ち込んだ。宇都宮線の大宮―宇都宮間が02年度比で1829人増の9万3167人、高崎線の大宮―高崎間が1957人増の11万6550人となっているのに比べて対照的だ。

さらに05年に「つくばエクスプレス(TX)」が開通したことも、県南各駅の大幅な減少に拍車をかけた。取手駅の12年度の1日平均の乗車人数は02年度比約1万7940人(40%)減の2万7768人だった。同じように12年度の各駅の乗車人数をみると、日立は02年度比1189人減の1万1693人、水戸は同1520人減の2万8041人、土浦が同3974人減の1万6233人、牛久が同6081人減の1万3789人と軒並み減らしている。乗り入れ競争で、各駅の利用客が減っている常磐線は不利という見方が支配的だ。

同県内の観光地からは「茨城を全国にアピールできるチャンス」と開通効果を期待する声が上がっており、新線への期待は高まるばかりだ。推進協議会の大山直樹会長は「利便性が向上すれば定住人口が増え、地域が盛り上がる」と普通電車の乗り入れを期待する。土浦市内で4月6日にあった「土浦桜まつり」でPRしたほか、沿線の駅前商店街にのぼり旗130本を飾るなどして乗り入れ本数増への協力を呼び掛けている。

笠間市商工観光課によると、地元の観光協会が主催する地域周遊型ツアーは、首都圏で車を持たない20代から30代の観光客に人気という。神奈川方面からのアクセスが不便だったことから、東京駅乗り入れを契機にさらに需要が伸びることも考えられるという。

宇都宮、高崎の両線沿線は東北、上越新幹線を使えば東京駅まで乗り換えなしで移動が可能だが、常磐線は新幹線がない。このため地元は「鉄道ネットワークの強化のためにも、乗り換え手段のない常磐線の乗り入れを増やすべきだ」という声も強い。JR東日本の12支社のうち、東京駅に直通する路線を持たないのは水戸支社のみだ。

同県は14年度当初予算の「公共交通利用促進等支援事業」に約1000万円を計上し、東京駅や品川駅、横浜方面でのキャンペーンを開催するという。JR水戸支社も常磐線が延伸される可能性が高い品川駅でイベントを開催するなど歩調を合わせる。

西回りの湘南新宿ラインに加えて、東回りの東北縦貫線経由の直通列車が加われば通勤や通学時間が短縮されて、茨城県にとどまらず首都圏の通勤、通学圏が広がる。通学できる学校の選択肢も多くなり、居住地選びや子どもが通う学校選びにも影響が出る。また、埼玉県から横浜市まで相互直通運転を実現した東京地下鉄の副都心線でもみられたように、相互直通運転は時間以上に心理的距離を一気に縮める。観光やショッピングでも、首都圏の鉄道利用者を刺激する効果は大きい。

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