テレビのヨミカタ
2014年09月10日(水) 高堀 冬彦

朝日新聞に批判文を寄せた池上彰氏にみるジャーナリストの役割と資質

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テレビ東京ホームページより

自社批判も厭わなかった名ジャーナリスト、故・筑紫哲也氏

NHK出身の池上彰氏が書いた従軍慰安婦報道についての寄稿文を朝日新聞が掲載を拒否し、社内外で批判の声が高まると、一転して掲載に踏み切った。この一件を眺めていると、故・筑紫哲也氏の在りし日の姿を思い出す。

TBS関係者にとっては思い出したくない過去かも知れないが、あえて書かせてもらう。同局ワイドショーのスタッフが、オウム真理教幹部たちに故・坂本堤弁護士のインタビュー素材を放送前に見せていたことが露見した1996年3月25日夜、筑紫氏はメーンキャスターを務めていた『NEWS23』の番組冒頭で、怒りで顔を歪めながら、こう言い放った。

「TBSは今日、死んだに等しいと思います」

ほかのメディアがTBSの責任を一斉に追及する中、もっとも厳しい言葉で激烈に批判したのは朝日からTBSに籍を移していた筑紫氏だった。この発言を不快に思った人もTBS内に居た。だが、最終的に同局を救ったのは筑紫氏による批判だったと思っている。

戦後、新聞界は故・本田靖春氏(読売)、故・黒田清氏(同)らの名ジャーナリストを生んだ。筑紫氏もその一人。ジャーナリストに求められる最低条件のひとつは一貫性だから、筑紫氏は普段、TBSのニュース内で政治家や行政、あるいは企業の悪しき点を責め立てながら、自分たちの番になると押し黙るということは出来なかったのだろう。

本田氏、黒田氏も激しい組織批判をしたことで知られる。本人は辛いだろう。立場が危うくなる。実際に本田氏も黒田氏も社を去った。筑紫氏もTBSでの居心地が悪くなったことだろう。

だが、結局は批判が報道機関を救う。ブランド力を保つことに繋がる。視聴者や読者にとって、報道機関が自社批判を避けることほうが不自然だし、所属組織の暗部に対しては沈黙する人間だらけの報道機関など信用されるはずがない。批判によって組織が自ら動くこともある。自浄作用だ。ほかのビジネスでも反抗勢力が組織の危機を救うことが珍しくないのと同じである。

97年、総会屋との癒着事件で大揺れとなった第一勧業銀行(当時)の建て直しに貢献したのも「4人組」と呼ばれた中堅幹部たちで、堂々と自社の古い体質や経営陣の在り方を批判した。それにより、結局は第一勧銀の信用と面目は保れた。いわば、逆命利君だ。反面、幹部が首脳陣に対するイエスマンだらけで、破綻直前まで真っ当な労働組合すら存在しなかった総合商社・安宅産業は、77年に跡形もなく消滅した。自社批判を許さない組織に未来はない。

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