ロシアとの戦争を望むポロシェンコとそれに対するNATO内の温度差

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」増刊号 文化放送「くにまるジャパン」発言録より

深読みジャパン

9月1日からはじまったNato Summit〔PHOTO〕gettyimages

伊藤: 共同通信によりますと、ウクライナのポロシェンコ大統領は28日、「ウクライナにロシア軍部隊が投入された」と述べ、国連安全保障理事会の緊急会合の開催を求めました。

ウクライナ大統領府が発表したもので、ポロシェンコ大統領は予定していたトルコ訪問を中止したことを明らかにしたうえで、「情勢の急激な悪化に対し、世界は判断を下さねばならない」と訴え、国連安保理の開催を求めました。

これを受け、安保理は28日に緊急会合を開くことを決めました。NATO(北大西洋条約機構)の当局者は、ウクライナ領内で1000人以上のロシア部隊が活動しているとの見方を示しています。また、ウクライナ国家安全保障会議は、「ドネツク州のノボアゾフスクは27日にロシア軍に制圧された」と発表しました。

大統領のこうした発言は、ロシアのプーチン政権がウクライナ国内のロシア寄りの勢力に武器を与えるなどの支援だけでなく、部隊を直接侵攻させたという認識を示すと見られます。事実なら、ウクライナ情勢は重大な局面を迎えたことになります。

邦丸: 共同通信は、最後の「事実なら、ウクライナ情勢は重大な局面を迎えたことになります」という一文で、この原稿を閉じているのですが。

佐藤: まさに、そこのところがポイントです。実は、ロシアから出てくる日本の記者が書いたものは、どこが書いているのかということに私は注目するんです。共同通信だと、私は非常に信用するんです。

というのは、モスクワ支局長の松島芳彦さんという人がいるんですけれど、この人はモスクワ駐在は3回目の超ベテランで、1993年にロシアの国会議事堂(ロシア最高会議ビル)が砲撃された際、当時の大きな携帯電話を持って、電源が切れるまで、中にとどまって情報を集めてニュースを送り続けたという現場主義の人で、すごくきちんとウラを取るタイプの人なんです。

その人の指導の下ということですから、共同通信のモスクワの記者は、入れ食いはしません。つまり、発表されたものをそのまま報道するのではなく、自分が見て「おかしいな」と思ったものは、このニュースの最後の一文のように、「事実なら」というような言葉を必ずつけるんですね。ですからこの場合は、ポロシェンコの言っていることを額面どおりには信じていないということなんです。

邦丸: なるほど。

佐藤: このニュースによってロシアはけしからんという見方をされがちですが、私は何度もロシアで殴られましたから、あの国がいかにけしからん国であるかということはよく知っている一人なんですが、ウクライナはそれに輪をかけてけしからんということもわかっています。

まず、ポロシェンコが言っていることは本当なのかどうか、ロシア軍が国境を越えているのか、親ロ派がどこかの町を制圧したのを「ロシア軍が制圧した」と言っているのか、よく見極めなければならない。人工衛星の写真で見ても、徽章まで見えるわけではないですからね。

邦丸: ふむ。

佐藤: その次に、もしロシア軍が越境したのならば、なぜ越境したのか。今、ウクライナからロシア領にミサイルを撃っているわけですよ。特定の場所から国境のロシア軍部隊に対してミサイルが撃たれているということなら、越境してその拠点を潰すということは、国際法上、違反ではないんですね。

邦丸: ほお。

佐藤: これは正当防衛になるんです。たとえば、北朝鮮が日本にミサイルを撃ってくる、あるいは撃ってくるのは確実だという状況のときに先制攻撃をかけるというのは、実は国際法上、合法なんです。

そういう局面を全部調べてからでないと、判断できない。ただ、これだけは言えるのは、そうとう情勢が緊張しているということと、ポロシェンコが戦争を欲しているのは間違いないということです。

多国間首脳会議でのプーチン(左)とポロシェンコ(右)

邦丸: ポロシェンコさんというウクライナの新しい大統領は、プーチンさんとパイプを通じて、つい最近もベラルーシというところで多国間首脳会議(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナ+EU)があったときに、柔和な表情ではなかったけれど、二人が握手しましたよね。

佐藤: 握手したけれど、映像で見ると、あのときの会議ではポロシェンコの手が震えていた。

邦丸: なんで震えたんですか。

佐藤: 怖かったからですよ。プーチンは、ポロシェンコのことをいろいろ知っていますから。

ポロシェンコは第一次ユーシェンコ政権の外務大臣。このユーシェンコもそうとう不正蓄財をしています。その後のヤヌコヴィチ政権では経済発展貿易相。これは、この前追放になった、とんでもない大統領でしょ。この政権の閣僚だったわけです。それで、どんどん財産を増やしていたわけですよ。今度は「マイダン」(広場)という運動の側で、改革派についた。スナイパーを雇ったりして、けっこう人を殺していますが、そのお金を出しています。

プーチンは、その辺のことを全部、押さえていますからね。だから、プーチンが怖いんですよ。

邦丸: ふーむ。そのなかで、ポロシェンコというウクライナ大統領は、ウクライナというのは今、経済がひっ迫しているなか、何とか支援を得たい。ロシアではなく、EUやアメリカにそれを求めたい。

佐藤: そうですね。それから、ポロシェンコ政権は連立与党だったわけですが、連立のなかで非常に有力だったのが、ひとつはボクシングの元世界チャンピオン(ビタリ・クリチコ)が率いる、腕力の強い人が集まっている、街頭でのデモがすごく強い政党(ウダル)でした。

もうひとつが、以前からこの番組でも何度か紹介しましたが、ナチス式の敬礼をするスボボダという政党でした。ウクライナ民族至上主義者の集まりで、カギ十字の旗を掲げていましたよね。

この有力な2つの政党が、連立を離脱してしまったんです。「ポロシェンコは生ぬるい。もっと厳しくやれ」ということなんです。こういう状況ですから、政権の権力基盤は非常に弱いんです。

こういうときに政権が生き残るためには、いちばんいいのが「戦争」なんですよ。戦争が起きれば、国民は団結して、なかでガタガタやっている場合じゃないということになりますから。ですから私は、このポロシェンコがやっていることに、いつも疑惑と警戒の目を向けているんです。

邦丸: もし、戦争の火蓋が切って落とされたら、さきほどのニュースでNATOの当局者は、ウクライナ領内で1000人以上のロシア軍部隊が活動しているという見方を示している、このNATOも当然、かかわってくる話になりますか。

佐藤: ただし、このニュースの表現も非常に微妙なんですよ。1000人以上のロシア軍部隊が活動しているという点については、私もそうなんだろうと思います。ロシアの情報を収集する活動部隊は、ウクライナに1000人ぐらい入っているだろうと思います。

NATOも、占拠する行動部隊が1000人いるのだとは言っていないんですよ。ですから、NATOもうまい表現をしているわけです。

邦丸: ぶっちゃけた話で言うと、ウクライナの現在の状況というものを当然、EUもアメリカも把握していて、ロシアを批判する一方で、オレたちはそう簡単にはのらないよ、ということなんですか。

佐藤: NATO内にも温度差があるんですよ。アメリカとカナダは、イケイケ(行け行け)なんです。遠いから。

邦丸: 地理的にね。

佐藤: バルト三国とポーランドあたりも、イケイケなんです。それは、近過ぎるから。国境を接していますから、ロシアがカーッとなって何かやってくると怖い。ウクライナに対してロシアが何かやったときにはひどい目に遭うということになれば、自分たちのところには来ないだろうとは思っている。

邦丸: ウクライナが緩衝地帯、ショックアブソーバーになっているんですね。

佐藤: そういうことなんですよね。それから、ドイツは「もう、いいじゃないか。適当にやろうや」というのが本音ですよね。ドイツは第一次世界大戦、第二次世界大戦で、ウクライナで戦っているんですよ。それで最終的に敗けているでしょ。ひどい目に遭っているから、もう金輪際、ウクライナで戦争しないというのがドイツ人の本音なんです。

邦丸: はいはい。

佐藤: ドイツは安保理には入っていない。安保理でやるといっても、ロシアはこの場合、当事国だから決議に入れない。中国は拒否権を発動します。ですから、安保理ではまとまらないんです。

ウクライナとしては、とにかく騒ぐ。「攻められて、ボクちゃんたち、タイヘン。だから助けて。おカネも必要だし、政治的にも助けて」と、こういうふうにしてひと騒ぎするということでしょうね。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」増刊号(2014年9月3日配信)より

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