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スペシャル対談 養老孟司×内田樹 日本人はなぜ、「バカ」になったのか
——「ありのまま」「ネトウヨ」「ヘイトスピーチ」を大批判
週刊現代 プロフィール

 それに加えて面白いことに、日本社会の本音というのは常に、だいたい五分五分に落ち着くんですよ。自然とね。社会的な問題が起こったときに、賛成派と反対派が半々になる。僕は「内部の安定平衡」と呼んでいるんだけど、日本の場合、社会が安定平衡点に到達するのがすごく早い。

内田 上の世代がやって失敗したら、後続世代はその逆目に張るというのも日本的なソリューションですね。タイムスパンを広く取ると実はそれほど大きな変化はしていない。

養老 それが日本的な能率であり、日本社会が持っている、ある種の知恵ですね。

内田 安倍政権になって戦争のリスクは高まっていますが、どこかで日本社会の特性が歯止めになると思います。戦争とは戦争主体がいて、戦争目的、戦争計画があって行われるべきものですけれど、日本にはそれがありません。日本人の語る戦争はすべて「戦わざるを得ない状況に追い詰められて、やむなく応戦する」という筋で、最初から「後手に回っている」。これ、必敗の構造なんですよ。

養老 開戦の理由に主体性がないですからね。

内田 「世界平和を希求」と言っている以上、先制攻撃はできない。とすると、尖閣に中国軍が上陸して日本人に死傷者が出るような事態をただ待っている。いつ誰が戦争を始めるかという決定権を最初から仮想敵国に委ねている。こんな国に戦争はできません。

養老 主体を持たないというのは、主語を置かないのが日本語の基本構造になっているぐらい、日本の文化そのものです。アメリカ人はあんなに省略好きなのに、「I am」の「I」は絶対に省きません。「am」があれば「I」なんてなくても一人称だとわかるのに。

内田 「嫌韓・反中」の本が書店の棚を占領し、週刊誌も排外主義を煽っている。でも、実際に生身の中国人や韓国人を何人か知っているだけで、そんな単純な考え方はできないとわかる。僕の本は韓国でかなり翻訳されていて、講演会をすると何百人も韓国の読者が聴きにきますけれど、みんな本当にフレンドリーですよ。反日感情を感じたことなんか一度もないです。

養老 僕も気を付けているのは、中国と書かずに「北京政府」と書く。韓国と書かずに「朴(槿恵)政権」と区別する。政権が代われば変わるんですよ、ああいう国は。汚いヘイトスピーチをしている人たちは、それがわかっていない。メディアはメディアで「嫌韓・反中」と一括りにしてしまっているしね。

内田 韓国の人だって多くは自国政府の政策には批判的ですし。先日も韓国の読者がうちを訪ねて来たんです。日本旅行に来たついでに僕の道場を見たかったそうで。「韓国語版以外の著書も読みたいので日本語を勉強し始めました」って。ヘイトスピーチをする人たちには、そういう生身の経験がないんでしょう。