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スペシャル対談 養老孟司×内田樹 日本人はなぜ、「バカ」になったのか
——「ありのまま」「ネトウヨ」「ヘイトスピーチ」を大批判
週刊現代 プロフィール

養老 そう考えると、今の日本人は幼稚になっている、つまり経験が不足したまま大人になっているんじゃないかと思いますね。

内田 未成熟であること、利己的であることのほうが、成熟した市民であるより利益が大きいと思っているからでしょう。すぐに怒ったり、キレたりするほうが、感情を抑制するよりも周囲から気づかってもらえる。子供のままのほうが大人になるより得だと思えば成熟の動機は損なわれます。

養老 政治家にもそういう人が増えてますね。

内田 ほんとです。異論と対話して落としどころを探ったり、誤りを指摘されて前言を訂正したりできる政治家がほとんどいません。だいたい感情的な反発しかしませんね。

安倍晋三首相がその典型ですけれど、彼だって自分が幼児的な対応をしていることはたぶんわかっていて、そのほうが政治的に有効だと思っている。あの人って対話能力ゼロでしょう。それ、人間としてはありえない。意識的に「対話しないキャラ」を採用しているんだと思います。

養老 そんな安倍首相がなぜ高い支持率を得ているのかというと、戦後民主主義的な価値観や教育が行き過ぎた部分を戻すという、揺り戻し的な面もあるんでしょうね。それが右傾化と言われる。

内田 安倍政権による日本の右傾化を、僕はあまり心配してないんです。変化が急激過ぎるから、反動も早いし、強い。安倍政権は想像以上に短命だと思います。経済政策の破綻をきっかけに、あっさり支持率が下がるんじゃないですか。

単純な見方ばかり

養老 経済指標は確固としたデータなので、ごまかせませんからね。

 日本が右傾化しているというけれど、やっぱり中国や韓国の振る舞いにも問題があって、それへの「反応」がナショナリズムを押し上げている面はある。尖閣諸島や竹島をめぐる問題は、戦前だったら明らかに戦争になっているような状況でしょう。そうならずに済んできたのは、平和憲法のおかげであってね。

内田 そうですね。

養老 日本人というのは外交にせよ何にせよ、基本的に「反応」しかしないんですよ。「空気を読む」という言葉もあるように、自分から主体的に何かを提示するんじゃなく、その場の状況や起こったことに反応して動く。逆に、自分から動こうとすると損をする社会。出る杭は打たれる。