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二宮清純レポート オリックス・バファローズ投手 西勇輝 覚醒した「やんちゃ坊主」

2014年09月06日(土) 週刊現代
週刊現代

野球ができる喜びを知った

何の前触れもなく難病に襲われた西の心境たるや、察して余りある。

「治療といっても、点滴を2時間打つだけ。頭は痛い、耳は痛い、口は半分開きっ放し。涙もよだれも垂れ流し状態ですから、寝る時は目の上に絆創膏を貼って閉じていました。

もう野球どころじゃないですよ。ベッドに寝転がったまま〝次の仕事を探さなきゃ……〟と漠然と考えるようになっていました。

症状を知らない人は〝皆の前で笑ってみせて〟と言うのですが、顔面の半分が麻痺しているので笑顔さえつくれない。片方だけで無理やり笑っている僕のぎこちない表情を見てビックリしたと思いますよ。

だから心の中では、こう叫んでいました。〝こんなに医療技術が発達しても、人を笑顔にさせることもできないのか。ふざけんな!〟って……」

病気が病気だけに、誰にも相談できなかった。また相談したところで回復が早まるわけではない。

西は極力、人前に出るのを避け、部屋に籠もった。自暴自棄に陥りそうな自らを励ますには、どうすればいいか。救いを求めたのが書物だった。

「メンタル本に自己啓発本……、もう手当たり次第、読みました。あの時期は表情を失っていたので、感動させてくれる本を探したんです。その結果、自分を見つめ直すことができた。あの時期があったからこそ、野球ができる喜びが増したんだと思っています」

発症から2ヵ月後のことだ。季節は秋になっていた。

朝、いつものように歯磨きをしていると、ミントの味が口に広がった。

「あれ、味がするぞ!」

コンタクトレンズを探すと、動いていなかった右目が、かすかに動いた。

すぐさま着替えて病院に直行すると、ポツリと医師は言った。

「あぁ、治ったね」

突発的に発症し、ある日、突然治る。これが、この病気の特徴である。

「今だから、こうやって話せますけど……」

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