国連が法規制を求める「ヘイトスピーチ」は、もはや「ネットの娯楽」では済まされない!

取材・文/ 西岡研介

8月20日から21日にかけて、国連人種差別撤廃委員会による「対日審査」がスイスのジュネーブで行われ、在日韓国・朝鮮人(以下「在日朝鮮人」あるいは「在日」と略)らに対する「ヘイトスピーチ」(差別・憎悪煽動)について「包括的な差別禁止法の制定が必要」とする日本政府への勧告案をまとめた。今後、国連ではこの案を基にした「最終見解」を発表する予定だというが、この対日審査が行われる直前の18日、一人の在日朝鮮人女性が大阪地裁に訴えを起こした。

レイシストの攻撃は最も弱い立場の者に集中する

ヘイトスピーチを巡る初の個人訴訟に踏み切った李信恵さん(撮影:西岡研介)

在日一世の父と、二世の母を持ち、東大阪市に住む李信恵さん(43歳)。現在はネットメディアを中心に活躍するフリーライターで、一児の母でもある。

訴えられたのは「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と同会会長の桜井誠氏(42歳)、そしてネットサイト「保守速報」の運営者だ。在特会と桜井氏の実像については、安田浩一著『ネットと愛国』(講談社刊)に詳しいのでそちらに譲るが、「保守速報」とは、「2ちゃんねる」の書き込みなどをまとめてアップする、いわゆる「まとめサイト」である。

李さんの代理人弁護士によると、在特会や桜井氏らは少なくとも2013年1月から14年7月までの約1年半にわたって、街頭やネット上で李さんに対する差別的、侮蔑的発言を繰り返したという。原告側が収集した記録によると13年5月5日、在特会が神戸の中心街、三宮で行った街宣(街頭宣伝活動)で桜井氏は、李さんを名指しし、次のように発言している。

〈 こちらはですね、李信恵さんを称える市民の会でございます。今日はようこそいらっしゃいました李信恵さんね。(中略)みなさん、ここにいる朝鮮人のババアね、反日記者でしてね。日本が嫌いで嫌いで仕方ないババアは、そのピンク色のババアです・・・ 〉

また保守速報は、「リンダ(筆者注:李さんのハンドルネーム)はシネ」(13年10月25日)、「さすが朝鮮人 キチガイっぷりパネェwww」(13年11月4日)、「韓国といえば汚物 汚物といえば韓国だろ 自らの出自を否定するなよ」(13年8月25日)など、差別的表現で李さんを侮辱し、脅迫する投稿の「まとめ」を、13年7月から14年7月までの約1年間に45本作成。このうち李さんの名前が題名に入っているものは42本、また李さんの写真が添付されているものは33本に及んだという。

彼らの言動は、一人の在日女性を執拗に攻撃するヘイトスピーチそのものだが、李さんや代理人弁護士によると、在特会などのレイシスト(人種差別主義者)の攻撃は、在日の中でも特に、李さんのような女性や、後述する京都朝鮮学校の児童ら、最も弱い立場の者に集中するという。

女性や子供を好んで的にかける、その卑劣さには虫唾が走るが、李さんは、彼らの差別的言動で、在日朝鮮人としての、また女性としての尊厳を傷つけられたとして、在特会と桜井氏に約550万円、保守速報に約2,200万円の損害賠償を求める名誉棄損訴訟を提起した。

2014年5月11日に大阪で行われた在特会の「ヘイト街宣」に姿を見せた桜井誠会長(撮影:秋山理央)
この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら