佐々木俊尚(後編)「『無償の愛の交換ができない』からこそ、居心地の良さを希求して、適応する」愛は幻想だけど構築可能なもの

2014年08月28日(木) 小野 美由紀

小野 美由紀愛の履歴書

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佐々木は3年半の間、アスキーに籍を置きつつも、フリージャーナリストとしての道を模索しはじめた。創刊まもないころの『サイゾー』や『サンデー毎日』など、外部からのライター仕事を引き受けはじめた。事件記者に戻ろうかという迷いも生じたが、その分野の人手は足りている。今の自分が築けるキャリアは何か。

ちょうどその頃、IT犯罪が人々の話題に上りはじめた。IT犯罪の取材は、インターネットにも、犯罪にも詳しくないと難しい。「これはひょっとしたら、俺しかできないんじゃないか……?」佐々木の予想は正しかった。IT犯罪記者として、フリーランス業の軌道も徐々に乗りはじめ、翌年の年収はアスキーにいた時の倍にまで上がった。2006年に執筆した『グーグルGoogle-既存のビジネスを破壊する』は10万部のベストセラーに。自分らしい働き方の模索に、光明が見えてきた。

共依存的ではない夫婦関係

2001年。ちょうど、9.11の頃だった。アスキーの編集者として働く中で、佐々木は一人の女性と出会う。フリーのイラストレーター、松尾たいこ氏だ。いろんなところから切り離されて、精神的に、孤独を感じていた頃だ。映画の趣味が合う、ライフスタイルが合う。そうしたところが、佐々木には居心地がよかった。自然と一緒にいる時間が増え、同居生活が始まる。松尾は離婚し、一組のカップルが出来た。

「一緒にいて、互いのプライベートに干渉しない、ほどよい距離感の関係。『共通の友人が少ないほうが、男女は上手く行く』という記事をこの前、読んだのだけど、もしかしたら自分たちも意識して、そうしてきたのかな。ただ、彼女はそれを必ずしも是とは思っていないみたいで、自分のことも喋るからあなたもあなたのことを喋ってというプレッシャーは感じるけど(笑)それは、うまくかわしつつ……」

籍をいれたのは、2009年。きっかけは“スポーツジム”だった。

「ずっと事実婚でいいやと思ってたんだけど、スポーツジムに行くようになったら、家族会員のほうがすごく安いって言うことが分かって(笑)じゃあ籍を入れますか、みたいな。互いにそんなに制度にこだわりのある人ではない。前夫の名字が松尾で、その名前で仕事をはじめてしまったから、離婚した後も仕事上は名前を変えずに今も使っているけれど、僕は全然気にならない。そういうのが気にならないのも、パッションがない証拠なのかなと思うけど……」

自分にはパッションがない。男女が渾然一体になるような理想の恋愛ができない―そう長年悩んでいた佐々木だが、意外にもそのハンディキャップが、結婚生活においては「つかずはなれず」の関係を構築する武器になることを知る。

「互いのプライベートを尊重して、べたべたしない関係のほうが、夫婦は上手く行くって言うこと。裏返せば、共依存的じゃないということで、それが今の時代においてはよく見えるのかもしれない。共依存的なものは、はたからみると気持ち悪く見えるようになってしまうものだからね。

戦後民主主義的な、2人で新しい生活を築いていって、みたいなのって、けっこう大変だよ。昔の家族って、社会の大きな同心円の輪の中に絡めとられていたでしょう。会社の全員が『ああ、誰それの奥さんね』と顔を見知っていて、奥さんは社宅の中で、夫の序列に組み込まれてて…。今はそうではない。仕事関係、飲み友達、ネットの関係、と別々のコミュニティがある。そういう宙ぶらりんの中で、弱い臍帯でつながっているのが今の人間関係。

だから、夫婦が一体化する関係って逆に生きづらくなっちゃって。人間関係の組み方がかわった今、強いつながりを一つもっているよりも、弱いつながりをたくさんもっているほうが、セーフティネット的に安全でしょう。もちろん精神的なセーフティネットは彼女や妻が多くを担うものでは有るけど、それが共依存的な辛さにつながるから、上手く行かないんじゃないかなって。

今の時代は男女2人ではなくて、仲間の方が大事。夫婦も一つのレイヤーである。という捉え方のほうが、自然。だから、夫婦関係も変容を迫られているのではないかと思うんだよね」

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