読書人の雑誌『本』
『進撃の巨人』を科学的に検証する---『進撃の巨人 空想科学読本』著・柳田理科雄

諫山創(いさやま・はじめ)先生の漫画『進撃の巨人』が、小学生を含む若い世代に熱く支持されている。あらすじを紹介すると、こんな物語だ。

物語の進行時点から107年前、突如「巨人」という謎の生物が現れた。身長3mから15mに及ぶ巨体で、他の何物にも目をくれず、ひたすら人間を食べる。人類はなす術もなく食い散らされ、人口は激減した。わずかに生き残った者たちは、高さ50mの壁を三重に築き、そのなかで命をつないできた。壁から出ず、そのなかで暮らしている限り、安全なはずだった。

ところが5年前、身長60mという予想もしなかった超大型巨人が出現、壁を蹴破った。崩れた壁の穴から大小の巨人が侵入し、100年前の悪夢さながらに人類を食らい始める。最初に食われるシーンが描かれたのは、主人公・エレンの母親だった。巨人は彼女を巨大な口に放り込み「パキパキ」と音を立てて嚙み潰す・・・・・・。

このショッキングな漫画が、小学生にも人気と聞いたときは驚いた。明らかに子ども向けの巨人グッズ、たとえば巨人がプリントされたTシャツや文房具、そしてお弁当箱(!)が売れているというのだ。人間を食らう巨人が描かれたフタを取って、その中身を食べている!? もちろん、小学生たちの感覚がどうにかなったのではなく、『進撃の巨人』がそこまで愛される作品である証なのだろう。 

1961年生まれの筆者も、この漫画には強く惹かれた。魅力は大きく二つあって、一つは巨人の異様な存在感、もう一つはそれを殲滅しようとする人類の科学と勇気だ。

筆者は長く、漫画やアニメや特撮の世界で起こることを科学的に分析してきた。だから漫画を読むことも仕事のうちなのだが、しばしば個人的に好きで、熱心に追いかける作品がある。『進撃の巨人』もその一つで、コミックスの新刊が出るたびに読んでは、劇中の謎についてアレコレ考えたりしていた。そこへ、版元の講談社から『進撃の巨人』について科学的に楽しく検証してください、というお話がきたのでビックリ。渡りに船とお引き受けした。こうして書いたのが『進撃の巨人 空想科学読本』だ。

科学的な分析や検証といっても、劇中の現象について「科学的に正しい」とか「誤っている」などと判定を下そうというのではない。巨人が作品に描かれているとおりの存在だとしたら、それはどのような生物なのか? 巨人を倒す方法はないのか? こういった問題について、ストレートに考えたのである。

たとえば、巨人は頭を大砲で吹き飛ばされても1~2分で再生する、という設定がある。その場合、それはどんな再生能力なのか?

あるいは、巨人には生殖器がなく、繁殖の方法は不明とされている。では、どんな方法で繁殖すると考えられるか?

これらを愚直に検討していくと「巨人の細胞の再生スピードは人間の7200倍!」「巨人は進化の速度が遅いと考えられ、すると逆に人類が誕生するはるか前から、現在の姿をしていた可能性が高い!」などなどの結論が次々に導かれる。要するに、巨人を科学的に研究してみたら、思っていたよりずっとコワかった、といった話が満載の本になったのである。

筆者はこの本の中心読者を、小学生と想定して書いた。企画を立てられたのが、児童図書第一出版部の田中利幸さんだったからでもあるのだが、これは筆者にとっても理想的に嬉しいことだった。昨年から拙著『空想科学読本』シリーズを小学生向けに書き直すなどしていて、子どもたちにこそ、科学の考え方に触れてほしいと思っていたからだ。

たとえば「無人島に置き去りにされる」といった未知の環境で、生き延びる方法を示してくれるのは、科学の知識である。われわれの世代がコンピュータや携帯電話の出現という環境の激変に驚いてきた以上に、子どもたちの生きる未来は、未知との出会いの連続となるだろう。そこで生きる彼ら彼女らにとって、科学の考え方を少しでも身につけておくことは、必ず力になると信じる。そして『進撃の巨人』という異世界は、それを経験するのに最適の舞台だとも。

とはいえ『進撃の巨人』は、無条件に面白い漫画である。途轍もない想像力が注ぎこまれており、だからこそ得られた本書の検証結果は、子どもにも大人にも充分楽しんでいただける、と思っている。

(やなぎた・りかお 空想科学研究所主任研究員)
講談社 読書人「本」9月号より

柳田理科雄(やなぎた・りかお)
1961年、鹿児島県種子島生まれ。ガガーリンの宇宙飛行に感動した父親が「理科雄」と名づけた。浪人生活を経て、東京大学理科Ⅰ類に進学するが、のち中退。91年に学習塾「天下無敵塾」を立ち上げるが、たちまち赤字に陥る。96年、塾の運転資金ほしさに、漫画やアニメや特撮などのSF設定を科学的におもしろく検証した『空想科学読本』を執筆すると、60万部のヒットを記録。しかし印税の入金が間にあわず、塾は倒産。99年、空想科学研究所を設立して、研究と執筆で生きていくことを決意。『空想科学読本』はシリーズ累計で300万部のベストセラーとなっている。97年からはFAX新聞『空想科学 図書館通信」の週1送信を開始し、希望する全国の高校に無償で送りつづけている。著書は他に『ジュニア空想科学読本』シリーズ(角川つばさ文庫)など。

著者:柳田理科雄
『進撃の巨人 空想科学読本』
(税抜価格:800円)

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