サッカー
二宮寿朗「アギーレジャパン、キーパーソンは通訳」

 チームのトップが外国人監督という体制になれば、通訳は欠かせない。
 指揮官が意図することをチーム内部の選手、スタッフにはもちろん、外部のメディアやファンにも正確に伝える意味でも、通訳は極めて大切な役回りだと言っていい。日本代表新監督に就任したメキシコ人のハビエル・アギーレ氏にも、スペイン語の日本人通訳がスタッフ入りする予定だ。
 では「日本代表監督の通訳」に求められるのは、一体どのような要素なのだろうか?

監督と選手の心をつなげた前通訳

 前任者アルベルト・ザッケローニ監督の通訳を務めたのが、矢野大輔氏である。“イケメン通訳”として世間の注目も浴びた。
 矢野氏はセリエAでプレーすることを目指して15歳のときにイタリアへ渡った。トリノの下部組織でプレーしたものの、プロの道をあきらめて22歳で引退。2006年、トリノに移籍した大黒将志の通訳を務めた時の指揮官がザッケローニ氏であった。その縁もあって、ザッケローニ氏と再びタッグを組むことになったのだ。

 通訳の仕事は監督の言葉をチーム内外に伝えていくのが一番の仕事になる。とはいえ、やるべきことは多岐にわたる。矢野氏の場合、ザック体制はイタリア人のコーチングスタッフが4人いたため、必要な際は彼らの通訳もこなさなければならなかった。また彼らに日本での生活で困ったことが生じれば、身の回りの世話をしていく必要もあった。こう言うと「24時間態勢」と思われるかもしれないが、ザッケローニ氏自身、なるべく通訳に頼らないようにする配慮があったようだ。

 通訳プラス世話役。それに加えてチームスタッフの一員としての顔も持つ。矢野氏は陰から選手たちをサポートする立場でもあった。
ザックジャパンを支えてきた一人、センターバックの栗原勇蔵(横浜F・マリノス)から聞いた話がある。
「(Jリーグの)試合が終わった後、矢野さんから『監督はこう言っていたよ』みたいなことを伝えてくれる。それが自分にとっては凄く参考になった」

 ザッケローニ氏は多くの選手に目を配ってきた指揮官だ。しかし、すべての選手に言葉を伝えることなどできない。選手からすれば「監督は自分のことをどう見ているのか」は気になるところ。矢野氏が必要に応じてそつなくフォローに回っていたことがうかがえるエピソードでもある。

 ブラジルW杯のベースキャンプ地、イトゥでの最後の日。
 ザッケローニ氏が選手たちに別れの挨拶をした際、隣にいた矢野氏は涙を流して、言葉に詰まったそうだ。選手たちをスタッフの立場で支えてきた矢野氏の涙につられるかのように、彼らもまた泣いていた。この4年間、ザッケローニ氏と選手たちの心をつなげてきたことを考えても、彼は“名通訳”だと言っていい。