利き手は、進化の証!? 右利き、左利きがあるのは、○○確率を上げるためだった
~ヒト以外の動物にも右利きと左利きがある~
右利きと左利きでは、口の傾きが明らかに違う
富山大学大学院医学薬学研究部
竹内勇一先生

1978年、愛媛県生まれ。横浜市立大学理学部卒業後、京都大学大学院理学研究科博士課程を修了。現在、富山大学大学院医学薬学研究部に所属

魚に右利き、左利きがある!?

松尾貴史(以下、松尾) 魚類を対象に、右利きと左利きについて研究されているという竹内勇一先生にお越しいただきました。魚類に関するお話をうかがう前に、まずは人間の利き手のメカニズムが、今のところどの程度まで解明されているのかを教えていただけますでしょうか?

竹内勇一(以下、竹内)  はい。みなさんご存じのように、体の司令塔は脳です。体の右側の感覚や運動は主に左脳によって、体の左側は主に右脳によって司られています。ただ、人間の脳の神経細胞は、約1000億個はあるといわれていて、やはりそのメカニズムの全容を解明するのは、なかなか難しいというのが現状なのです。

松尾 なるほど。そこで、先生が全容を知る手がかりとしてアプローチしたのが、人間を除く、動物の利き手ということなんですね?

竹内 ええ。そうです。

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松尾 動物と人間の脳は、やはり根本的に違うのでしょうか?

竹内 基本的な構造は共通していると考えられていますが、いちばん大きく違う点は、やはり動物のほうが脳の仕組みが単純だということです。たとえば、私の調べている魚類でいえば、脳の神経細胞はおよそ100万個。人間とは比べ物にならないほど、数が少ないです。

岡村仁美アナウンサー(以下、岡村) 10万分の1ぐらいですね。

松尾 10万分の1? 岡村さん、計算が早いね! さすが東大出(笑)!

岡村 本題に戻りましょう(笑)。竹内先生たちの研究グループは、2012年の1月にアフリカのタンガニイカ湖に生息するある種の魚には、獲物となる魚を右側から襲うタイプ「右利き」と、左側から襲うタイプ「左利き」がいて、それらは口の形が左右で異なり、右利きは右から、左利きは左から襲ったときのほうが捕食が成功しやすいことを突き止めたそうです。

松尾 おもしろいですね! 詳しく聞かせてください。

竹内 はい。そもそもは、私が大学院時代に師事した堀道雄先生が、アフリカのタンガニイカ湖に棲むウロコを食べる魚の研究をされていて、その研究に私も参加させてもらったことがきっかけです。

松尾 ウロコを食べる魚って、タコが自分の足を食べるようなものですか?

竹内 いいえ。獲物となるほかの魚を襲い、ウロコを剝ぎ取って食べるのです。ウロコは、ケラチンというタンパク質でできています。ただし、ケラチンは非常に硬いので、人間は消化することができません。ですが、この魚はウロコを溶かすことができるようなのです。

松尾 なんという名前の魚なのでしょうか?

竹内 和名がついていないのですが、「ペリソーダスミクロレピス」という種名で、タンガニイカ湖にしか棲んでいません。

松尾 難しい名前ですね~。それで、右利きのペリソーダスミクロレピスと、左利きのペリソーダスミクロレピスがいるということですか?

竹内 彼らは口が左に向かって開くものと、右に向かって開くものがいます。ペリソーダスミクロレピスには、個体によって、顎の大きさに明瞭な左右差があるのです。実は今日、スタジオに標本をお持ちしました。このシリンダーのなかに入っているのが、ペリソーダスミクロレピスです。

松尾 たしかに、右利きと書かれているケースの魚は、魚自身から見て口の右側がぐっと突き出していますね。左利きと書かれているほうは、逆に口の左側が突き出ています。これは、ランダムに生まれてくるのですか?

竹内 いいえ。ランダムではありません。これは遺伝だと考えられていて、両親が右利き同士だと、子は必ず右です。両親が左利き同士だと、子は左が2、右が1の割合で。両親が右利きと左利きだったら、子は左右同じぐらいの割合で生まれてきます。

松尾 先生は、この魚のウロコを食べる姿をどのようにして観察したのでしょう?

竹内 はじめはタンガニイカ湖の水のなかに入って観察していたのですが、エサとなる魚を襲う動きが速くて詳しい状況が全然わからなかったので、魚を日本に輸入して、名古屋大学(当時)の実験室内で捕食の様子を高速度ビデオカメラで撮影しました。

すると、右利きの場合は相手の右側面のウロコを狙い、左利きでは逆に相手の左側面を狙っていました。ごくたまに右利きも左から、左利きも右から獲物を襲うことがありましたが、たいていは動きが遅くて口を獲物の体に押しつけることができず、うまくウロコを得ることができないことがわかったのです。ヒトでいう、利き手とは逆の手だと、うまく文字が書けないのと同じような現象ですね。

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