「痛い体験」を吐き出すことで自分が楽になっていく末井昭(『自殺』)×岡檀(『生き心地の良い町』) 後編

2014年08月30日(土)
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末井 ぼくはね、悩んでいても、寝たら治るんですよ。

 わたしもそれはあります。あとお風呂につかると。

末井 一日寝たら、だいぶ年とってきたからかもしれないですけど、前の日のこと忘れちゃってるところがあるんですね。

小堀 わたしもそうですね。酒飲んで寝たら、たいがい忘れてますね。

 忘れるって、さっきの飽きっぽいもそうですけど、結構いいことだと思います。

小堀 そう。それがひどくなってきて、忘れようとしても思い出せないということになる(笑)。これは漫才の鳳啓介さんのギャグですけど。

『自殺』を末井さんから送っていただいて、こういう本はやっぱり自分一人で持ってちゃダメだと思って、それでおやじ買いというか、朝日出版社の方にファックスをお送りして「買わせてください」って。こういう本は面白いけど怖いところもあるんで、これは自分一人で持ってちゃダメだ、それこそ「病は市に出せ」じゃないけど、どんどん広めていかなきゃいけないんじゃないかと。

それで知り合いの新聞記者や放送局の人に渡して行くわけですけど、それと同時に演劇をやってる人達、劇作家の人達には変わった人達がいまして、それから放っとくとちょっと不安だなっていうような人も何人かいるわけですね。そういう人達に「おい、ちょっとこれを読め」と渡して行く。

読んでくれた人が、今日も来てくれてますけど、感想をツイッターでつぶやいたり、それを末井さんがリツイートしたり、たぶん今日初めて会うことになると思うんですけど。そうして、末井さんが書かれたことによって、普段は会えないままの人が出会えるというのが面白いなと思いますね。

末井 『自殺』でトークイベントとかやらせてもらって、いろんな人と知り合ったり、岡さんの本と出会ったり、「べてるの家」を知ったり、自分が知らなかったことを知って行くとか、知らなかった人に会えるとか、そういうのが楽しいですね。
あと書店を回ったりするんで、書店の人ってほんとにみんないい人なんですよね。ほんとにいいですね。楽しいです。今日も京都の書店を6軒回ったんですよ。自慢げに言いましたけど(笑)。

市に出した病は人に影響を与えるか?

質問(女性) 今日お伺いしたお話の中で、病は市に出せ、出したら楽になるみたいなお話を聞いてすごい納得したんです。わたし自身が結構辛く思ってしまいながら来たんですけど、病を市に出すようなことを最近し始めて、すごく楽になったような気分を味わっているんです。それで、市に出した病が誰かを楽にするというか、たとえば私が市に出した病がそれを聞いた人に何か影響を与えるとか、楽にしたりとか、そういう効果を持つことがあるとお考えになりますか。

末井 月乃光司さんは『自殺』でもインタビューしているんですけど、月乃さんは「こわれ者の祭典」とか「ストップ!自殺」とか「行きづらさだヨ!全員集合」というイベントを主催しているんです。月乃さんのイベントはどれも、病を市に出すということを実際やっていて、精神病の人や自殺未遂をした人などが舞台で自分の体験を語るんです。観客は泣いたり笑ったりしていて、舞台に立つ人も、それを観る人達も同時に解放されるんです。だから、一度その舞台に立たれたらいいんじゃないかと。

病は市に出せといっても、自殺や精神病の話は気軽に話せる場がそんなにあるわけじゃないですよね。そういう話が世間話のようにできるようになればいいと思ってます。

小堀 『今夜、すべてのバーで』っていう中島らもさんの小説があるんですけど、そこに書かれているアル中患者の人が書いた本のエピソードは、本人が体験したことですけど、その人が「頭が割れた」ってビックリして倒れて、そのあと「脳みその破片が転がってる」って言うんですけど、そしたらほかの患者さんが「分かった、分かった」って言って探しに行くんですね。「お、あった、あった」とか言って。この人にはそういうふうにしてあげないといけないと思ってて、その人も精神を病んでいるんですけども探しに行くんです。精神を病んだ人が“芝居”で応えるという。まあ参考になるかどうか分かりませんけど、そういうようなこともあるということで。

 「病は市に出せ」っていうのが、海部町で語り継がれていることわざなんですけど、その病が重症化する前にとにかく早くオープンにして、助けを求めて、ひどくならないうちに、取り返しがつかなくなる前になんとかしろっていうメッセージは、さっきも少し話が出ましたが、ここの町の人達はすごく損得勘定がたけていることです。自分にとってお得ならすごく積極的にやるってことがあるんです。病は市に出せも、自分にとって必ず巡り巡ってお得だと思うからやってるってところが見えてくるんです。

重症化する前に早めに言ってもらえれば、軽症の段階ならなんとかしてあげられるっていう、周囲を巻き込むような大事にならないですむっていう、そういうお得感がひとつと、あと悩みを打ち明けられたりした場合に、それで何か助けてあげたり支えてあげたりしたときに、「自分の番が来たときの切符はもうゲットしたぜ」、みたいなところはあるんです。

そういう、なんかすごく極端なえげつない言い方をすると、取り引きみたいに思っているところがあって、だけどそんなふうにドライだからこそ続いていくし、わたしも何かそういうふうに相談されたときに、ちゃんと距離を持ってドライな気持ちで対応するのがいいのかなって、この町のことを知った以降は思い始めています。

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