「痛い体験」を吐き出すことで自分が楽になっていく
末井昭(『自殺』)×岡檀(『生き心地の良い町』) 後編
左から末井昭氏、岡檀氏、小堀純氏

日本で最も自殺率の低い「自殺“最”希少地域」のひとつ、徳島県の海部町を4年にわたって調査し、自殺率の低さの謎に迫った『生き心地の良い町』(講談社)が反響を呼んでいる岡檀さん。母親のダイナマイト心中、愛人の自殺未遂、3億の借金・・・・・・衝撃の半生と自殺者への想いを丸裸で綴った『自殺』(朝日出版社)で第30回講談社エッセイ賞を受賞した末井昭さん。「自殺」をテーマに綴られた異色の2冊をめぐる対話をお届けします。聞き手は編集者の小堀純さんです。
⇒【前編】はこちらからご覧ください。

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自殺した人を悼む気持ちがあるんです

自殺する人はみんな迷っている

小堀 末井さんは、『自殺』を書かれたときに、富士の樹海にも行かれたじゃないですか。

末井 あっ、樹海はすごいですよ。そこですごい数の人が自殺している場所ですから、なんて言えばいいんでしょう、場所のオーラ、オーラとは違いますね、何か気配みたいなものがあるんですよね。

最初、担当編集者の鈴木さんに行かないかって言われたとき、ちょっとひるんだんですね。樹海を案内してくれる方が、2日あれば見付けられると言っていると鈴木さんが言うんですよ。つまり、死体をです。2日もいられないけど、1日でも結構確率高いですからね。

結局行くことになったんですけど、微妙なんですよ。せっかく行くんだから、そういう人がいて欲しいとも思うんですけど、いたら嫌だなぁみたいな。そういう気持ちで行ったんですけども、結果的に見付からなくてホッとしたというか。
樹海というのは、遊歩道が何本かあるんですよね。そこは樹海を楽しむ人が来て歩いているんですけど、自殺される方はそこではしないんです。そこから林の中にするっと入って行くんですね。中に入って行くときに、ビニールのひもを結んで、それを引っ張りながら入って行くんです。

樹海って入って行くと方向が分かんなくなるんですね、どこを見ても同じですから。それで変なところに行っちゃって、出られなくなっちゃうことが多いんで、帰ってくるためにひもを引っ張って行くんですけど、そこで決心して実行する人は、ひもは必要ないんです。ひもの必要な人は、迷っている人なんです。ひもを伝って出てくれば、生きようってことなんですよ。

で、そのひもがやたらあるんですよ。ということはやたら迷っているっていう感じじゃないですか。樹海を案内してくれたのは、樹海について本も出されている早野梓さんていう方なんですが、早野さんは、樹海に入る9割ぐらいの人が迷っていると言うんです。9割ぐらいの人は声かけたら、わりと助けられると。1割ぐらいの人は最初からひもなんかなくて、ガーッって入って行くらしいんですよ、やっちゃう人は。

だからね、樹海に限らず、自殺する人ってみんな迷ってるんだろうなって思いました。

小堀 日本三大自殺の場所は、樹海と、東尋坊、三段壁ですね。あとの2つはどちらも海で、飛び降りですね。

末井 飛び降りですね。もう助からないです。ひもは、ぜんぜん関係ない(笑)。

 三段壁に白浜レスキューという名前のやはり番人というかそういう方がおられるんですけど、同じことをおっしゃってました。やっぱり、その、声をかけると、迷っている人達がいかに多いかが分かるって。

末井 樹海から帰ってきたとき、日本中に無数のビニールひもが張り巡らされているイメージが浮かんだんですね。自殺という究極の選択まで行っちゃう人は、たぶん人に何も話せなくなっている状態だと思うんですよ。そういう人に「自殺はいけないよ」とか言っても通じないと思うんで、その人の感情に寄り添うというか、寂しいんだったらその寂しさに寄り添うようにできると、交わす言葉なんてなんでもいいと思うんです。その人が少しでも心を開いて、ちょっとコミュニケーションがとれたら、思いつめていた気持ちがすっと変わるみたいな、そういうことがあるんじゃないかなぁと思っているんです。

樹海に張り巡らされたビニールテープ