自殺をテーマにした異色の2冊の著者が語る「なぜ徳島県海部町は日本一自殺率が低いのか」末井昭(『自殺』)×岡檀(『生き心地の良い町』)前編

2014年08月30日(土)
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小堀 読んでいて、そこのところで笑って、楽になったんですよ。吉岡先生が末井さんのインタビューにすごく淡々と答えて語られていくんで、これすごいなぁと思って読んでいたら、その一言があったんで、思わず「ふっ」となってしまって。

『自殺』の本の中に出てくる方々って、どこか客観視して語ってらっしゃるところがあるなぁって思ったんですね。もちろんそれは末井さんのインタビューの仕方もあると思うんですけれど、そういうふうに他者と向き合っているから、そのお仕事をずっとされてこれたんじゃないかな。

海部町の場合は、なんか町全体がそういう、いい大人の人がいるというような感じがしますね。

 はい。何かこういうふうにしなくてはいけないとか、それこそ自殺を減らすためにこういうことをしようとか、意識的にやってきたことは何ひとつなくて、だからわたしが感心してたりしても、「それが何か?」っていう感じなのが、またかっこいいんです。

末井 ちょっと種明かしのようになりますけど、この本の中に出てくる海部町の特徴なんですけど、箇条書きで簡単にまとめている箇所があるんです。
まず「いろんな人がいてもよい。いろんな人がいたほうがよい」。これがひとつですね。

それから「人物本位主義をつらぬく」。要するにその人の見かけのことではなくて、その人の本質、問題解決能力や人柄や、その人の本質で評価するわけです。
それから、「どうせ自分なんて、と考えない」。岡さんがみんなに「自分にも政治を動かすというか、影響を与える力が備わっていると思いますか?」って質問するんですけど、海部町は高いんですね。ほかの地域に比べて、政治を動かせるって思っている人が多いってことですよね。

そして、さっき言った「病は市に出せ」ということと、「ゆるやかにつながる」ってあるんです。

 はいはい。そうです。

末井 「ゆるやかにつながる」もいいんですよね。海部町の人達は、けっこう人に干渉するらしいんですけれども、すぐ忘れたり、飽きちゃったりするらしいんです。

 そうです、飽きっぽい。

末井 それがいいんですよね。

 いいみたいです。しつこくない。一方で、自殺が多い地域ですと、何かひとたび噂がたったり、その人ってこういう人だって決められると、孫子の代までという言葉がついてくる。すごく強いきずなの緊密な関係性の中では、それが張り付いたまま離れていかないという息苦しさがあるんです。けれど、海部町の人達は、簡単に評価を決め付けないというのがありますし、いったん何かこの人はこういう人だと思っても、すぐまた見方を変えて見たりします。

小堀 評価が流動的なんですよね。いったんついたレッテルが剥がれやすい。

 剥がれやすいんです、良くも悪くも。考えたら、それはすごく楽なことだなぁと。
それに関連して、「一度目はこらえたれ」っていう言葉があって、失敗しても、何か人に迷惑をかけることがあっても、一度目は許してやるという言い方で、「二度目は許さない」という意味ではなくて、1回の失敗であなたを全否定しないよっていうことなんですけれど。

末井 合理的っていう言葉はあまり好きじゃないんですけれども、なんか合理的ですよね。

 そうなんです。わたしもすごくそう思いました。もうちょっと踏み込んで言うと、計算が働いているというか、結果的にちゃんと得になるとか、損になるかということを考えながら。

末井 そう、「損得」にもすごくこだわっているんですよね。だから、決して聖人君子的な人達ではなくて、自分が得したり損したりすることにすごくこだわる人達でもあるわけですよね。

 そうなんです。それによって突き動かされているので、迷いがないというか、すごくすっきりと動くということがあります。

小堀 「損得」という言葉も岡さんのこの本の中でよく出てきますけれども、誤解を恐れずに言えば、「損得」ということもすごく大事なんだっていう。

『生き心地の良い町』
著者:岡檀
講談社文庫 / 定価1400円(税別)
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徳島県南部のある小さな田舎町は、全国でも極めて自殺率の低い「自殺“最”希少地域」だった。町民たちのユニークな人生観と処世術。その極意が、四年にわたる現地調査によって解き明かされていく。

徳島県南部の太平洋沿いにある小さな町、海部町(かいふちょう)(現海陽町)。 このありふれた田舎町が、全国でも極めて自殺率の低い「自殺“最”希少地域」であるとは、一見しただけではわかりようがない。この町の一体なにが、これほどまでに自殺の発生を抑えているというのだろう。 四年間にわたる現地調査とデータ解析、精神医学から「日本むかしばなし」まで多様な領域を駆使しつつ、その謎解きに果敢に取り組む。――生きづらさを取り除いて共存しようとした先人たちの、時代を超えて守り伝えられてきた人生観と処世術が、次々とあぶり出されていく。
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