自殺をテーマにした異色の2冊の著者が語る「なぜ徳島県海部町は日本一自殺率が低いのか」末井昭(『自殺』)×岡檀(『生き心地の良い町』)前編

2014年08月30日(土)
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徳島県海部町の風景

小堀 『生き心地の良い町』を読ませていただくと、朝日新聞の地方版に「老人の自殺が17年間ゼロ、ここが違う徳島・海部町」っていう記事が載っていて、岡さんは最初それを見つけられたわけですね。

四国の徳島県の海部町というところが自殺率が非常に低いと、それで「これはなんだろう」ということで研究されて行くわけなんですけど、そもそも岡さんが自殺のことについて、ここまで執拗に調べ、書いて行こうというモチベーションといいますか、そのきっかけってどういうところにあったんでしょうか。

 私は社会人をやったあとに、もう1回大学院に入りなおして研究してきた者なんですよ。そのときに、きちんと研究の基軸に据えようと思ったのは、まずコミュニティということに目を向けようということです。私が長年やってきた仕事のテーマ、戦争被害者の体験を聞き取り調査したりする中で、その人がなんらかの被害を受けたときの苦しみとか辛さは、その人が属するコミュニティが、その人をどういう態度で迎えたり取り扱ったりするかによって変わるんです。同じ被害を受けたとしても、すごく癒されていく人と、ますます辛くなる人がいる。

そして、自殺の問題というのは、遺族の手記を読んだときに、わたしは何も分かってなかったなぁということにショックを受けて、そのあたりから始まったんですね。

小堀 それからすごくたくさんのご本を読まれて、実際に歩き回って取材をされているわけですれども、さっき、わたしがお話しした海部町の記事を発見されて、それで海部町に行かれるんですね。

その前に先生方や先輩に反対されますね。自殺の少ない地域の研究という、学問として先輩の方々が誰も手を付けていない分野というのは、先人がいろいろやってダメだったということと、やるからには大変な困難をともなうことと、その両方だというふうに言われるんですけれども、岡さんは「いや、なんのその」ということで一人で行かれることが、この本にドキュメンタリータッチで書かれています。末井さんがさっき言われたように、謎をどんどん解き明かして行くように、岡さんの行動がこの本の中から見えてくる感じで一気に読めてしまうんですけれども。

末井 先生方から、「そういう研究やめとけ」と言われたときに、岡さんが書かれている言葉が「へっちゃらだった」なんですけども、この「へっちゃら」って言葉がすごく良かったんですよ。学者の方が「へっちゃら」って、なんかいいなぁと思って。

生き心地の良い町』著:岡檀
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 自殺の多い地域に対して、なぜ多いのかっていう研究はすごく積み重ねがあるんですけれども、少ない地域に着眼して、なぜ少ないんだろう、なぜ自殺が起きないんだろうという研究はなかったので、誰もやっていないことに手を付けるというのは、先輩とか先生方には止める方が多かったんですよね。だけど、そういうことを言われても「へっちゃらだもんねー」とか思って(笑)、あまり意に介さずやっちゃうことがわたしはありまして。

小堀 ミステリーでも、殺人が起こって事件の謎解きをして行くというのは分かるんですけれども、死んでない人、生きている人に関しては、人はあまり関心を持たないし、調べないですよね。どうしてこの人亡くなったんだろう、何があったんだろうっていうことに関心が行きますよね。自殺の原因となるものは、自殺危険因子と言いましたっけ。

 自殺の危険を高めるのが自殺危険因子で、防ぐほうが自殺予防因子です。

小堀 すごく分かりやすい言葉なんですけれども、わたしも編集者を長いことやっていますけれども初めて出会った言葉で、「あーそうか、予防因子っていうのがあるんだ」と思って。日本は、皆さんご存知のように自殺者が多い。

 主要7ヵ国の中で一番です。交通事故で亡くなる人の6倍ぐらいが、毎年自殺によって亡くなっています。意外と知られていない数字なんですけれども。

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