山田肇×吉川尚宏×町田徹 【第3回】 「M2Mを基軸にした4社目の通信事業者が日本の電波利用を変える」
~日本の電波の有効活用を考える座談会~
[左から] 山田肇さん(東洋大学教授)、司会の町田徹さん(経済ジャーナリスト)、吉川尚弘さん(ATカーニーパートナー)

【第2回】はこちらをご覧ください。

電波の利用に官僚が口を挟むべきなのか

町田: 電波利用に関しては総務省が鳴り物入りで研究を走らせています。7月の中旬にその「電波政策ビジョン懇談会」という研究会から中間取りまとめが出た。この中間報告書は80ページくらいだったと思いますが、「今までに無線局はものすごく増えているが、これからももっと増えるんだ」と言っている。どれくらい増えた、あるいは増えると理解すればいいんでしょうか。

吉川: 僕はその「電波政策ビジョン懇談会」、通称「ビジョン懇」と呼ばれているんですが、そこに入っています。今日本では携帯電話やスマホを合わせて1億4000万台くらいいっています。携帯やスマホの市場はもうほとんど飽和しているでしょうね。人が利用するのは精々1人2台くらいですから。

しかしこのあと、いわゆるM2M(Machine to Machine)とか、IoT(Internet of Things)とか、あるいはIoE(Internet of Everything)といった、モノに通信モジュールがついていくとすると、その何十倍も通信は使われるでしょう。しかも映像化するでしょう。そういうことを考えると、無線通信需要はすごく増えていって、無線の帯域がパンクしないか、という議論は為されています。つまりまだまだ電波が必要です。

それに対してどう対応していくかというと、それには答えがいくつかある。多分その目玉の一つがキャリアアグリゲーションですね。異なる電波帯域をまるで一つの帯域のように使えるようにしましょう、ということです。それから、電波の割り当ては第4世代というのが次の大きな目玉として控えています。ただし、その前に2.5GHz帯の地域WiMAXが使われていないということがずっと言われて、これをどうするかも一つの課題ですね。これはケーブルテレビや地域の自治体が手を挙げて免許をとったんですが、やっぱり全然使われていないんです。

町田: たとえば半径で言うと、どのくらいのところをどのくらいの速度で通信できるようなイメージですか?

吉川: WiMAXですから、数kmがカバーでき、下りの速度は20Mbps程度が出ます。多分通信機器が高かったんでしょうね。あんまり普及していないです。しかも、地域に根差した使い方をしましょう、ということで、福祉なんかの用途に使えるようにしようと言っていたんですが、そのコンセプトがまずかった。自治体やケーブルテレビなど体力なんて元々ないところに10MHz幅だけなんですけど付与したけれど、全然使われていない。

しかし、それが今は凄く重要な周波数帯になってきているんです。というのは、TD-LTE方式というiPhoneなんかも使っている方式の電波として急に注目されてきたんですね。ですから、ソフトバンクが「欲しい」というふうに名乗り出てきて、「私たちがMNOとして整備するので自治体の皆さんをMVNOとして提供します」という提案もされたんです。ただ、当座はケーブルテレビの皆さんが使っていて、すでに整備しているところもあるので、「あともう少し状況を見ましょう、それでダメだったら全国版をMNOが入って整備しましょう」ということになったわけです。

町田: 地域のケーブルテレビの問題についていうと、実は今の光ファイバーでは現行ハイビジョンクラスですら送受信できるような状況にない。さらにテレビの高度化ということで、4Kとか8Kとか、さらなる伝送量が必要になってくるわけです。

そんなのは、とてもじゃないがついていけない。「ローカルのケーブルテレビ電話局はもうJ:COMとかもっと大きなところに巻かれろ、その傘下に入っておまえたちは廃業しろ」というようなところまで、ここ1年くらい総務省が迫ってきている。結局は相当の抵抗があって廃業を迫るところまではいけなかったという事情があるわけですよね。そういうところに新たな電波帯域を与えて、「有線でやるよりはやりやすいはずだから整備してみろ」というチャンスを与えるという意味ですか?

山田: でも電波帯域を与えたのはもう6年くらい前ですからね。

町田: ああ、じゃあ進展はしていないんですね?

山田: ええ、ですから今の話は順番が逆ですね。

町田: じゃあ、それすらやっていないからダメだという理屈だったんですね、むしろ。

吉川: 新しい技術方式、AXGP(Advanced XGP=高度化XGP)とかWiMAXの新しいバージョンを使えるようにして、そこにもキャリアアグリゲーションを入れると言っているので、その周波数帯を持っていれば、全国をカバーできる可能性は出てきます。その裏でどういう駆け引きがあったかは知りませんが、少なくとも前よりは事業がやりやすい環境にはなっていると思います。

ただ、ケーブルテレビってまだ全国で数百あります。とてもじゃないですが、投資体力はないと思いますね。多分、やっぱり虫食い状態で、本当に熱心なケーブルテレビ事業者だけが整備しているという状況に終わる可能性は高いな、と思います。まあ、ちょっと執行猶予みたいなイメージが非常に強い。

町田: そうすると、使われていないところも多いということを考えると、壮大な無駄使いになる可能性もあるということですか。

吉川: 10MHz幅だから大したことがないという見方もありますが、逆にある種のプラチナバンド化してきている。これが今後、たとえばあと2年くらい猶予をみて、さらにそこから整備し直すと数年ロストするわけです。ソフトバンクさんの主張がいいかどうかは別にして、「私たちがやりたい」とおっしゃっているところがあるのなら、そこに一気に投資してくださいと任せる方向もある。

町田: 逆に言うと、そこの使い道まで役所が決めてしまうという日本のあり方がいいのかどうか。

吉川: もともと地域に根差したと言っても、インフラって地域に根差すも何も用途は何でも使えるわけですよ。総務省がおっしゃっているのは、地域の中でなるべく広くカバーしてくれというような話だったと思うんです。まあやっぱり地域に根差した電波というのは、そもそもスキームとして無理がありますよね(笑)。インフラはインフラとして考えて、その用途を地域に根差した目的に使えばいいだけのことで、ちょっと元のスキームに無理があったように思いますね。

町田: そこまで電波の利用に官僚が口を挟むべきなのか、という議論にはなりそうですね。

吉川: 電波にそんな地域色とか全国色のような性格をつけるべきなのかどうか、ということもありますね。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら