人の心と社会を動かす脚本家・山田太一氏の新作『おやじの背中』第7話に期待

TBS「おやじの背中」HPより

隣人を描き、個人に示唆を与え、世間を動かす作品

日本を代表する脚本家の一人である山田太一氏は、50年近いキャリアを誇り、130本以上の作品を書いてきたが、刑事ドラマやミステリーを手掛けたことは一度もない。

山田作品には極悪人も登場しない。逆に善意の塊のような人も現れない。登場するのは、どこにでもいる隣人のような人たちばかり。ストーリーにどぎつさもない。それでいて見る側の胸を強く揺さぶる。

たとえば、故・鶴田浩二さんが主演したNHK『男たちの旅路』の第4部で放送された「車輪の一歩」(79年)は、身体にハンディがある人たちと健常者との共生について、大勢の視聴者に深く考えさせた。

「車輪の一歩」の放送後、歩道から段差が徐々に消えてゆき、諸施設にはスロープが設置され始め、駅の階段には車椅子用のリフトが作られるようになった。このドラマがバリアフリー化を促進させる一助となったのだ。

このドラマの放送当時、車椅子の人が一人で列車に乗るのは難しく、一部のバスは車椅子の人が一人で乗車することさえ認めていなかった。このため、「車輪の一歩」に登場した車椅子の若者たちは外に出ることをためらっていた。他人に迷惑を掛けたくなかったからだ。

だが、ガードマンに扮していた鶴田さんが、車椅子の若者に対し、こう語り掛ける。

「人に迷惑を掛けないというのは、今の社会で一番、疑われていないルールかも知れない。しかし、それが君たちを縛っている。

一歩外に出れば、電車に乗るのも、少ない石段を上がるのも、誰かの世話にならなければならない。迷惑を掛けまいとすれば、外に出ることが出来なくなる。だったら、迷惑を掛けてもいいんじゃないか。

もちろん、嫌がらせの迷惑はいかん。しかし、ぎりぎりの迷惑は掛けてもいいんじゃないか。掛けなくてはいけないんじゃないか」

身体にハンディがある人と健常者の共生問題に真正面から向き合ったドラマは、「車輪の一歩」まで存在しなかった。反響は凄まじく、世間を動かした。個人にも示唆を与え、このドラマを見て医療や福祉の道に進むことを決めた人は、一人や二人ではないと聞く。

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