『火薬のはなし』
爆発の原理から身のまわりの火薬まで
松永猛裕

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爆発と燃焼は、どう違うのか。
爆発の巨大なエネルギーの正体は?

 小惑星探査機「はやぶさ」を打ち上げたM-Vロケットは、全段が固体ロケット推進薬で構成されていました。実は「爆発する物質」は、我々のまわりに無数にある。意外なことに、火薬にとっての絶対条件は、必要ない時は「絶対に爆発しないこと」なのだ。火薬のサイエンスから、身のまわりの実用まで、火薬のすべてを分かりやすく解説します。


まえがき

 この本では火薬という、普段ほとんど見ることのない化学物質をわかりやすく解説しています。また、火薬であるかないかは法令で決められていますが、この本の第1章から第5章までは法令にとらわれることなく、サイエンスの視点で幅広く周辺領域を含めて紹介しています。そして第6章で国内の法令や国際的な取り決めについて書きました。

 火薬というと戦争に使われるものと想像されるかもしれません。でも、そんなことはなく、いろいろな産業で有益に使われています。火薬はエネルギーを貯蔵できる素晴らしい化学物質です。この本は、ミリタリー(軍事)技術にいっさい関わっていない人関が書いた、世界的にも珍しい火薬の本です。筆者は独立行政法人産業技術総合研究所(産総研と略す)という、産業の発展と安全を研究する研究機関で働いています。火薬類取締法という法律を所管する経済産業省の技術的な支援を行うのが筆者の研究室のミッションです。

 筆者がなぜ、火薬という特殊な物質を研究するようになったのか? それは、ジャンケンに負けたからです。

 本当ならば、大気汚染-光化学スモッグの研究者になっていたはずなのです。私が育った静岡県浜松市は自然豊かなところでした。筆者が中学生の頃、東京に行く機会があり、東京タワーの展望台に上りました。当時は光化学スモッグが社会的な問題となっており、東京の空はとても汚れていました。そこで、子供心に「この空をきれいにしてみせる!」と思い込みました。その後、順調に東京の大学に進み、希望の研究室に配属になり、望み通りの研究ができるはずだったのです。

 しかし、大気汚染のテーマ枠は1人、これに対して複数人の希望者がいました。そこで、私はジャンケンの戦いに負けました! 痛恨のチョキ! 人生は努力していても思い通りにはならないものです。卒論は量子化学計算で高反応性物質の物性を予測する研究を行いました。大学院に進んでからは、実験も行うようになりました。爆発性のある化学物質の危険性評価が専門分野になりました。幸いにも同じ研究テーマでここまでやれています。チョキがもたらした運命ですが、今では天命かなと思っています。なにより、筆者のような自然と平和を愛する人間が、爆発を研究しているというのが良い。

 本の執筆依頼は当初、講談社から一般社団法人火薬学会にあり、筆者と筆者の大学時代の恩師である東京大学名誉教授吉田忠雄先生との共著となる予定でした。しかし、早朝や土日の作業となることが多く、十分な連絡をとれないまま、すべてを筆者が書き上げることになりました。もちろん、筆者が火薬の研究者になれたのは吉田忠雄先生のお陰です。予定通り、共著でもよかったかもしれません。さらに、執筆していた2014年春頃は研究不正が問題視され、ギフトオーサーシップなどという用語が飛び交った時期です。書かれた内容の全責任を筆者が負うべきと考え、筆者だけの単著とさせていただくことにしました。

 執筆の機会を与えてくださった講談社ブルーパックス出版部の梓沢修氏に感謝致します。また、いろいろな情報を提供頂いた火薬製造会社、砕石場、火薬研究者の皆様に感謝致します。

 予定では2012年末に書き上がっているはずでした。筆者もそれまでに書いたものがあったので積み上げれば簡単にできるつもりだったのです。しかし、書き始めてみると情報が古く、調べ直す必要があることを痛感しました。本文に書いていますが、技術的には完成の域にある火薬でも着実に新しい技術が生まれています。

 最後になりますが、筆者のいちばんの悩みは後継者がいないことです。筆者が大学生の頃は、国内でも数ヵ所、火薬を教える講座がありました。しかし、今ではほとんどありません。となると後継者が出てくるアテがありません。本の中でも書いていますが、筆者自身、火薬の研究から化学物質の爆発危険性・安全対策技術の研究にシフトしています。また近年、化学産業や大学の化学実験室での爆発事故が問題になってきています。この本をご覧頂き、こういう研究領域に取り組んでみたいという読者が現れることを心から期待しています。

著者 松永猛裕(まつなが・たけひろ) 
一九六〇年、静岡県浜松市生まれ。東京大学工学部卒業。工学博士。反応化学科(当時)の伝統ある火薬研究室で、爆発性物質の物性評価を行う。一九八八年、通商産業省工業技術院化学技術研究所に入所。改組後、現在は独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門に勤務。火薬および爆発性物質の安全研究に携わる国内で数少ない専門家。
『 火薬のはなし 』
爆発の原理から身のまわりの火薬まで

松永猛裕

発行年月日: 2014/08/20
ページ数: 264
シリーズ通巻番号: B1879

定価:本体  980円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)