ブルーバックス
『山に登る前に読む本』
運動生理学からみた科学的登山術
能勢 博=著

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無理のない登り方で、憧れの山を目指す

体力に応じた適切な登山ペースとは? 水分・栄養補給の必要量はどのくらい? 効果的なトレーニング方法は? など、山に登る前に知っておきたい身体と運動のメカニズムをわかりやすく解説。安全にワンランク上の山に挑戦したい人に向けた、運動生理学からみた登山術。


はじめに

 登山は若いころの「憧れ」を思い出させるスポーツである。私の住む安曇野から北アルプスの山々を眺めていると、若いころの記憶がよみがえり「また挑戦したい」と思う。

 登山の魅力は、未知のことに「挑戦」し、あらかじめ起こるであろう困難を想定して、その準備をしてから出かけ、それがうまくいったときの喜びを味わうことだ。それは、私の専門の生理学において、作業仮説をもち、そのための実験プロトコールを組み、仮説を検証するという過程に似ている。

 たとえば、ある山に登ろう、と決心したとき、体力はどれくらい必要で、水と食料はどれくらい持っていけばいいのだろう、などが気にかかるはずだ。体力とは自動車のエンジンのようなもので、自分のエンジンが大型なのか小型なのかを理解しておくことはとても大切だ。さらに、山の気温はどれくらいで、衣服はどれほどもっていけばいいのか、食料、水はどうかも気になる。どうしても、それらを余分に持っていきたくなるが、荷物が重くなると登山どころではなくなる。あれこれ考えていると面倒くさくなって、経験のない人の多くは登山をあきらめてしまう。あるいは、もう少し未練のある人は経験のある人に連れて行ってもらうことを選ぶかもしれない。しかし、それでは、たとえその山に登ったとしても、本当に登ったことにならない。やはり、自分で考えて準備をしないと挑戦したことにならないし、それを達成したときの満足感も自信も得られない。

 本書は、著者の経験を中心に、登山というスポーツを著者が専門とする環境・運動生理学の立場から科学的に解説したもので、皆さんに「挑戦的な」登山をしてもらうための指南書である。この本の内容をよく理解し、それを参考に登山の準備をすれば、これまでの登山がもっと楽しいものになるし、もっと高い山へ挑戦しようという気にもなるだろう。そして、その過程で得た自信は、皆さんの人生をより充実したものにするはずだ。

 いうまでもなく、登山で最も重要なことは安全である。最近は中高年者の登山事故が増えているが、その原因には「自分の体力を自覚していない」、「登山というスポーツのキツさを知らない」、そして「自分の体力に合った登山計画をたてられない」といったことがあげられる。これらの対策をすれば、事故はもっと減り、より安全で挑戦的な登山が可能になる。

 中高年の登山事故が多いことを鑑みて、本文で取り上げる事例は中高年に関することが多い。しかし内容は、これから登山をやってみようとする若い人たちにも役立つものである。この本を読むことによって「役に立つ」生理学の面白さを理解していただければうれしいし、そして、何よりも、自らの頭で考えて、目指す山(目標)に挑戦することこそが人生だ、と思えるようになっていただければ、もっとうれしい。

著者 能勢 博(のせ・ひろし) 
信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学講座教授。一九七九年、京都府立医科大学医学部医学科卒、京都府立医科大学助手、米イェール大学博士研究員、京都府立医科大学助教授などを経て現職。信州大学山岳科学総合研究所・高地医学・スポーツ科学部門長、常念岳診療所長などを歴任。一九八一年に中国・天山山脈の未踏峰・ボゴダ・オーラ峰に医師として同行し、自らも登頂。著書に、『人は山をめざす』(オフィスエム)、『「歩き方を変える」だけで10歳若返る』(主婦と生活社)など。
『 山に登る前に読む本 』
運動生理学からみた科学的登山術

能勢 博=著

発行年月日: 2014/08/20
ページ数: 192
シリーズ通巻番号: B1877

定価:本体  800円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)