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「シュモクザメ」別名ハンマーヘッド。ヘンテコ頭に進化した驚きの理由

沼口麻子「サメに恋して」第7回

ヘンテコな頭の形をしたサメ

サメグッズのひとつを紹介したい。これはシュモクザメをイメージしたボールペンだ。シュモクザメを、漢字で書くと「撞木鮫」。英語では「ハンマーヘッドシャーク」と呼ばれる。

その名のとおり、大きなハンマー状というかT字状というか、バシっと頭を叩いたら目が飛び出てしまった、まるでアニメのキャラクターのような、一風変わった形の頭をしている。

なぜこのサメがヘンテコな頭の形になったのか。それには様々な説がある。ひとつの説に、感覚をより鋭くするためというものがある。張り出した先には目、その前方には鼻があり、ハンマー状の頭を持たないサメと比較した場合、物理的に視覚・嗅覚がより優れている。

さらに、ロレンチニ瓶という電気受容器官が多く集まる頭部の面積を大きく発達させたことで、サメ独特の能力である第六感の感度を高めているとも考えられている。

サメ独特の第六感とは、いわば透視能力のようなもの。超能力者がテーブルの上にあるトランプに手をかざすと、記号や数字をビシッと言い当てられるのと同じく、海底の砂地の上すれすれを泳ぐシュモクザメは、砂に身を潜めている餌生物の居場所がありありとわかってしまうのだ。

現時点でシュモクザメの仲間は世界に10種。種類によって、左右にもっとも突き出た頭を持つものや、左右の突出具合が非常に小さいもの、頭の真ん中に切れ込みが入っているものなどがいる。これは、彼らの生活スタイルや捕食生物の違いから進化したものなのだろうか。微妙に異なる頭の形状から、彼らの生活スタイルを想像してみるのも面白い。

ちなみに、このボールペンの頭の形状を観察してみると、左右の突出具合が小さく、頭部中央の切れ込みや凹凸がないことがわかる。そんな特徴を有するのは、ウチワシュモクザメとなるのだが、それにしては鼻の位置する部分のカーブが少しおかしい。サメ愛好家が集まるサメ談話会は、こんな会話が弾むこともしばしばだ。

実際のシュモクザメの頭

ダイバーでも簡単には会いにいけないハンマーヘッド

さて、このシュモクザメ。ハンマーヘッドあるいはハンマーヘッドシャークと言った方がピンと来るかもしれない。

伊豆半島南部の静岡県下田市の沖、静岡県の最南端にあたる神子元(みこもと)島という小さな無人島がある。その周辺海域が世界的にも有名なハンマーヘッドが見られるダイビングスポットとなっており、毎年7〜8月には、100匹以上の群れと出会えることもあるという。

ハンマーヘッドは、ダイバーになれば誰でも簡単に会いにいけるわけではない。

サメが出るポイントというのは得てして、潮の流れが強い場所が多く、ドリフトというダイビングスタイルで潜水することが多いので初心者だと難しい。なぜなら、潮の流れの上流から潜水を始め、サメが出現しやすい岩場に捕まってサメを待ち、その後、岩から手を離し、下流へ流されながらサメを探して、浮上するというスタイルだからだ。

これには中層を一定の水深をキープして泳ぐスキルや、ときに潮の流れに向かって泳ぐ脚力、万が一はぐれたときの緊急対応スキルなど、ある程度ダイビング経験が必要になる。

「1、2年生でダイビング経験を積み、3年生になったら神子元島でハンマーヘッドの群れを見に行くことを目標にしています」と、先日、私の母校の東海大学海洋学部の学生さんが言っていた。そのくらい、ちょっと緊張する海なのだ。

私は大学生のときにダイビングをかなり集中的にやっていたものの、現在は取材で年に数回潜る程度。自らのダイビングスキルにいささか不安を感じたものの、ハンマーヘッドの群れの遭遇率が高くなった先月の7月29日に、意を決して神子元島を訪れた。

ハンマーヘッドの赤ちゃんとの初めての出会い

私とハンマーヘッドとの初めての出会いは、2001年の小笠原諸島父島の二見港湾内だった。夜釣りをしていたときだった。

慣れない手つきで釣り針に餌をつけてみたものの、海に投げ入れる途中で釣り針から餌が落ちてしまった。また再度餌をつけようとリールを巻いたときだった。街頭に照らされてキラキラ光る釣り針を追いかけて何かが泳いできた。釣り針のまわりをくるくる何度か回ると、ぱくっと食いついたのだ。釣り針に餌はもちろんついていなかった。そして食いついたその魚はびっくりするくらい引きが強く、対峙している間は汗だくになった。

かなりの大物かと思ったら、釣り上げてみると60cm弱の小さな魚体。おそらく生まれたばかりなのであろう。

予想だにせず、赤ちゃんハンマーヘッドを釣り上げてしまったのだ。餌のついていない釣り針に掛かったのがなんとも愛らしく、その小さくとも果敢に生きる姿に魅了されてしまった。

この釣り上げた赤ちゃんハンマーヘッドは、水族館の水槽で展示飼育を試みたのだが、水槽の壁面にハンマーヘッド特有の張り出した頭がなんどもぶつかり、先端に位置する目が傷ついたことが原因だったのか、だんだん弱り、ついには死亡してしまった。本当にかわいそうなことをしてしまった。

それから何度かハンマーヘッドを飼育することがあり、縦長の四角い水槽よりも、円形で浅くて面積の広い水槽の方が、ハンマーヘッドに適していたということがわかった。

二見港湾内では昔から、夏になるとハンマーヘッドの赤ちゃんがよく目撃される。ここ数年は、小笠原が世界遺産に登録されたために湾内の船の往来が増えたせいか、ハンマーヘッドの目撃例は少なくなっているようだが、私がサメの研究のために小笠原に住んでいた10年ほど前は、珊瑚をみるためにビーチで素潜りを楽しんでいる人が、小さなハンマーヘッドと遭遇することも少なくなかった。

7月近くになると母ザメが沿岸域で出産し、子ザメたちは外敵も少なく、食べ物も豊富なこの湾内で数年を過ごしていたようで、この湾はハンマーヘッドにとってとてもよい生育場となっていたのだ。

新生・ブルーバックス誕生!