水門撤去で球磨川の清流回復に期待
熊本県知事の決断から4年余 全国初の取り組みに注目[荒瀬ダム]

ほぼ全ての水門が撤去された荒瀬ダム=熊本県八代市で5月21日

ダムを完全に撤去し、自然の状態に戻す全国で初めての取り組みが熊本県八代市の県営荒瀬ダムで進んでいる。県が1955年に発電専用のダムとして建設した荒瀬ダムは、老朽化や川の水質悪化の原因になっていると指摘され、蒲島郁夫知事が2010年に撤去を決断。水門開放から4年以上がたち、球磨川(全長115キロ)に清流が戻りつつある。一方で上流にある発電用ダムについて、国は水利権の更新を許可。地域住民らからは環境再生のスピードが鈍るのではとの声も上がっている。


今年5月23日、8枚あった荒瀬ダムの最後の水門の一部がクレーンでつり上げられ、トラックに積み込まれた。鋼鉄製の水門は、1枚が幅約10~15メートル、重さ約48~79㌧。事前にガスバーナーで小さく切った上、搬出した。これで12年9月に始まった水門の撤去が完了。今年11月ごろには、コンクリート製の土台部分の解体作業に入る。

撤去はダム建設から48年目の02年、地元の坂本村(現八代市)が県に要望した。ダムが建設される前は球磨川には毎年数千万匹ともいわれるアユが遡上していたが、ダム建設後にダム湖にヘドロがたまり、悪臭など環境が悪化。漁獲量が激減した。蒲島知事は10年2月に撤去を最終決断する。

県企業局の内部留保資金や国の交付金などから撤去費用88億円を工面し、6年がかりという前例のない大がかりな工事が進むが、変化は確実に表れた。

アユが取れる川に

撤去に先立ち同年4月から水門が常時開放されると、それまでせき止められていた水流が戻り、アユの餌場や産卵場になる「瀬」が徐々に復活した。

地元の環境カウンセラー、靏詳子さん(64)は「水門が開いてから川底が見えるくらい水がきれいになった」と話す。撤去工事で、自然回復のスピードはさらに加速。「荒瀬ダム撤去フォローアップ専門委員会」の調査で、ダム上流の底生生物が撤去以前の10種未満から60~70種に増えたことが明らかになった。

さらに、靏さんらの調査によると、「ミドリシャミセンガイ」など絶滅危惧種が回復し、天然物のウナギなどの漁獲量も増加。球磨川河口で1、2月に取れる天然アオノリの育ちもよくなっているという。

ダム撤去による環境変化や球磨川流域全体の影響を調査するため今年1月、1年ぶりに球磨川を視察した金沢大の大野智彦准教授(地球環境学)は、「撤去が進んだことで、河口まで変化が表れ、球磨川流域全体の再生が始まっていることを感じる」と話す。

07年3月時点で9万6000立方メートル(10㌧トラック約1万6000台分)の泥土がたまっており、今年度中に全て撤去する予定だ。

県は荒瀬ダムの上下流で水質や川の形状、動植物の生態がどう変わるか環境モニタリングを続けている。ダム建設前の河川図も参考に土砂の分布なども調べ、撤去後の18年度以降も調査を続ける。

また県は、荒瀬ダムが稚アユ遡上の妨げになって球磨川水系のアユ漁に多大な影響を与えるため、ダムが完成した1954年度から河口ですくった稚アユをダムの上流30カ所で放流する事業を継続してきた。だが、ダム撤去が進み、今年度中に右岸の構造物がなくなれば来年3~5月には稚アユの遡上復活が見込めるとして県は5月、同漁協に業務委託の終了を伝えていた。

球磨川漁協は6月、放流事業の業務委託について、撤去工事が終わる17年度まで継続するよう県に要望した。地元漁師の井上則義さん(71)は「昔のようにアユもたくさん取れる川に戻ってほしい」と18年春に予定されている撤去工事の完了を心待ちにしている。

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