成果に応じた新たな賃金制度導入へ
政府の成長戦略の目玉 「歯止めなき長時間労働」の懸念も[残業代ゼロ]

労働者の賃金制度が変わろうとしている。ガンバロー三唱をするメーデー中央大会の参加者=東京都渋谷区の代々木公園で4月26日

働いた時間ではなく仕事の成果に応じて賃金が決まる新たな制度の導入が決まった。経済界の意向を強く受け、首相官邸が6月末に閣議決定した成長戦略の「目玉」政策だ。対象者の枠組みは「少なくとも年収1000万円以上」で「職務の範囲が明確で高い職業能力を持つ人」。だが、労働者側にとっては「残業代ゼロ」で歯止めのない長時間労働を強いられるとの懸念は根強く、制度の詳細を詰める厚生労働省の審議会ではスタートから意見は真っ二つに分かれた。政府は来年の通常国会に労働基準法改正案を提出する方針だが、議論が難航するのは必至だ。

現在、日本の労働基準法では労働時間を「1日8時間、週40時間」と定めており、それを超えて残業すると、役員や部長などの管理監督者を除いて残業代を支払うように義務づけられている。だが、田村憲久厚労相や甘利明経済再生担当相ら関係閣僚は6月11日、職種や年収要件に該当する対象者であれば労働時間規制の適用から除外し、成果に応じて賃金を支払う新制度を導入することで合意した。導入企業は労使が合意して本人も同意すれば対象となり、労働時間を自由に決められることになる。ただし、残業代は支払われない。

これと類似した仕組みには、2007年に第1次安倍政権が導入を目指した「ホワイトカラー・エグゼンプション」がある。当時は年収要件900万円以上で管理職手前の総合職を想定したが、「残業代ゼロ」法案と世論の反発を受けて断念した経緯があった。それにもかかわらず、再び同様の「残業代ゼロ」が持ち出されたのは、経済界の意向が強く働いたためだ。

日本は先進国の中でも労働時間が長く、時間当たりの生産性が低いとされる。しかし、少子高齢化で人口減少が進み働き手も減少する中、経済の活力を維持して企業の生産性向上を図るためには、効率良く柔軟に働ける仕組みが必要との考えが経済界にある。

そこで、産業競争力会議の民間議員は4月末、一般社員も対象に年収を問わない新制度導入を提案したが、議論の口火が切られるや否や、連合など労働者側や民主党など野党は「残業代ゼロで働き過ぎを助長する」と猛反発。その後、民間議員側が研究開発部門などの管理職手前の幹部候補も対象にするように求めたのに対し、慎重姿勢の厚労省側は為替ディーラーなど年収数千万円の高度な専門職に限定すべきと応戦した。

ただし、労働時間規制の緩和は、安倍政権の経済政策である「アベノミクス」を推し進める首相官邸が、外国人投資家らの評価を高める株価重視の観点からも成長戦略の「目玉」に強く据えたがった背景がある。4月22日の産業競争力会議では、議長である安倍晋三首相が「時間ではなく、成果で評価される新たな仕組みを検討してほしい」と早々に関係閣僚らに指示。官邸主導で事実上、導入の方向性が決まっていた点は否めない。

制度設計で労使対立が鮮明化

官邸と厚労省のせめぎ合いの末、対象の大枠は「少なくとも年収1000万円以上」で「職務の範囲が明確で高い職業能力を持つ人」に決まった。制度詳細は、労使代表も参加する労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の労働条件分科会に委ねられたが、7月7日の分科会では議論のスタートから経営者側と労働者側の意見が対立した。

今後の大きな論点の一つは、年収要件だ。「1000万円以上」の給与所得者は全体の3・8%に過ぎず、分科会でも経営者側委員から「中小企業では全く活用できない。より多くの人が対象になるような制度設計を」と、早くも緩和を求める意見が上がっている。経団連の榊原定征会長も閣僚合意前の段階から「少なくとも全労働者の10%程度は適用を受けられる制度にすべき」と経済界としての本音をアピールしている。

これに対して、労働者側は「なぜ年収要件で適用除外にするのか、現時点では全く理解できない」と導入そのものにまで強く否定する声も出たほどで、1000万円を大きく上回る基準まで引き上げたい考え。なお、年収が1000万円より低い労働者について、厚労省はみなし労働時間に応じて残業代込みで賃金を決める裁量労働制の拡大で対応を検討する方針。

職種についても、経営者側が「基本的には個別企業労使に委ね、幅広く対象になる配慮が重要」と求めたのに対して、労働者側は「長時間労働、過重労働が合法的な形で助長されるのは明らかだ」と反論。いずれの議論も平行線をたどった。

連合など労働者側がこれほど反対姿勢を鮮明にするのは、長時間労働の助長と共に年収や職種といった範囲について「制度が始まればなし崩し的に対象が拡大されかねない」との懸念があるためだ。1986年施行の労働者派遣法では、派遣労働者が正社員の代用として働かされることを防止するために対象業種を当初は13に限っていたが、その後次々と拡大していった。民主党の山井和則元厚労政務官は国会質問で「『アリの一穴』法案になる」と例えて問題を指摘したが、警戒心は根強い。

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