「上書き保存」で、記憶を編集する
ニューロンの科学が示唆するPTSDの治療

レビュー:青木 薫

『ニューヨーカー』誌の2014年5月19日号に「パーシャル・リコール(partial recall)」というタイトルの記事が載っていました。ピンと来た人もいるかもしれませんが、これは映画『トータル・リコール』に引っかけているんです。この映画、いろいろ話題になったので、ご覧になった方も多いかもしれませんね。『トータル・リコール』は、人間の記憶をまるごと入れ替えることにより、別人格の人間をつくるという設定の映画でした。

(いきなり余談ですが、私は『ニューヨーカー』のこの記事を読んでから、有名な映画なのに見ていないことに気づき、ちょっと見てみました。オリジナルのシュワルツェネッガー&シャロン・ストーン主演のものは、自分的には、マジっすか、と開いた口がふさがらないくらいに、演技が下手だったり、台詞がベタだったり、まるで出来の悪いアメコミみたいだと感じましたが、リメイクされたコリン・ファレル主演のほうは、すんなりと物語に入れて、ずっと面白く見ることができました。ファレル主演版では、「コロニー」の情景が、『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』っぽいのも、雰囲気ありました~~。)

映画では、記憶をすべて書き換え(ただし、後述の「昔取った杵柄」的な記憶はすべて残っていましたが)、人格さえも変えてしまうのに対し、『ニューヨーカー』の「パーシャル・リコール」では、記憶の一部ーーもう少し具体的に言えば、トラウマなるような強い恐怖などーーを消去できるかもしれない、という話なのです。

こう言われると、「えっ! 記憶を操作するなんて、そんなことやっていいの?」、「記憶って、個人のアイデンティティーの根幹じゃないの?」、「嫌なことは忘れてしまえばいいというの?」と、つぎつぎと、人間存在そのものに関わるような深い疑問が湧いてきますよね。

こうした深い疑問に対して、パーシャルな(笑)答えを与える前に(どのみち全面的な答えなどないのです)、まず、この記事で大きく取り上げられている研究者をご紹介することから始めましょう。