呉智英 × 適菜収 【第5回】
「保守も革新も、右翼も左翼も問題は知性の欠如」

『愚民文明の暴走』(講談社刊)第一章より抜粋

【第4回】はこちらをご覧ください。

ネットで一番強いのはバカ

 面白い話があってね。一水会鈴木邦男が、学生時代に保守系の評論家や思想家に会って話を聞くと、みんなが歓迎してくれたと言うんだ。つまり、保守派は当時少数派だったから、「若いのにおまえたちは民族派とは偉いな」と褒めてくれて、ご馳走してくれたと。

でも、福田恆存は違った。福田は、「君たちは伝統とか保守とか言っているけど、君たちが今いる世界はみんな、近代文明、西洋文明ではないか」と言った。鈴木邦男は根がいい奴なんで、素直に喜んだらしい。つまり、自分たち学生を一人前扱いして議論してくれたと。

俺はちょっと違うと思う。福田恆存は彼ら若者たちが本当の保守ではないと思ったんだ。福田はロレンスの研究とか近代思想から入っている。福田の面白いところはそこ。近代文明との対比で考えている。近代を理解した上での保守だね。保守思想を天皇制だけで考えている奴は面白くない。

適菜 そうですね。右翼と保守は一致しないどころか、異なる部分が多い。保守は近代の不可逆性を認識した上で、現実から出発する。一方、右翼の本質は理想主義でしょう。

 転向した奴の優秀な部類は面白い。単純じゃないからだ。康有為も土着思想で西洋に対抗しないと侵略されると考えていて、近代化のほうに進んだけど、その段階で保守に戻って、孔子教を始める。それも外在的視点だよね。

【一水会】
鈴木邦男、阿部勉、犬塚哲爾、四宮正貴、伊藤邦典、田原康邦らが中心となり、1970年に決起した右翼民族派団体。「戦後体制を打破し、坑米自立・対米対等な真の独立国家を目指す」として活動している。

【鈴木邦男(1943~)】
政治活動家、「一水会」最高顧問。全国学生自治体連絡協議会初代委員長。三島由紀夫事件(楯の会事件)をきっかけに一水会を結成。著書に『愛国の昭和―戦争と死の七十年』『失敗の愛国心』など。

【福田恆存(1912~1994)】
評論家、劇作家、翻訳家。戦後、保守派の論客として精力的に活動し、進歩派の平和論や国字改革への批判を展開した。翻訳家としてはシェイクスピアの主要戯曲、D・H・ロレンスの『アポカリプス論』などを手がけている。

【デーヴィッド・ハーバート・ロレンス(1888~1935)】
イギリスの小説家、詩人、批評家。『チャタレイ夫人の恋人』など、性愛をテーマにした作品が多く、『アポカリプス論』では黙示録をモチーフに、現代の「愛」について問うた。

【康有為(1858~1927)】
中国・清末民初にかけての思想家、政治家、書家。西洋近代の政治について研究し、国会制度の改革を目指した中国近代化の先駆者として知られる。後に守旧派の弾圧を受け、日本に亡命。1911年の辛亥革命を機に中国に戻り、青島で最期を迎えた。
愚民文明の暴走』
著者=呉智英/適菜収
講談社 / 定価1,404円(税込み)

◎内容紹介◎

「民意」という名の価値観のブレそのままに、偽善、偽装、偽造が根深くはびこる現代ニッポンはこれからどこへ向かおうとしているのか? いったいいまの世の中において正しい考え方とは何なのか? 民主主義・人権主義の偽善について警鐘ならしつづけてきた評論家・呉智英と、「B層」をキーワードに、大衆社会の落とし穴を指摘し続けている気鋭の哲学者・適菜収が、現代ニッポンの「病の姿」を赤裸々にあばき、その解決法について徹底的に論じ尽くす。

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